事業承継・M&A補助金の「専門家活用枠」を使うと、会社を第三者に売るオーナーは、M&A仲介会社やFAに払う手数料の1/2〜2/3(成約時の上限は450万円または600万円)の補助を受けられます。 売り手向けには「売り手支援類型」と「小規模売り手支援類型」の2つがあり、同じ公募回ではどちらか1つにしか申請できないため、手数料の見込み額と会社の規模から有利な方を選ぶことが大事です。
この記事でわかること
- 売り手支援類型と小規模売り手支援類型の違い(補助率・上限額・下限額・未成約時の扱い)
- 仲介手数料60万円〜1,200万円の場合の補助額(編集部試算)と、どちらの類型が得になるかの分かれ目
- 補助対象になる費用・ならない費用(仲介手数料以外に弁護士・司法書士・セカンドオピニオン費用なども対象)
- 仲介会社と契約してよいタイミングと、最低報酬額がある見積の注意点
- 補助金を使えない売り手の典型例と、申請前のチェックリスト
この記事は、後継者不在などの理由で会社や事業を第三者に売りたい中小企業・小規模事業者のオーナー向けです。 16次公募の申請スケジュールや準備の段取りそのものは、事業承継・M&A補助金 16次公募の申請ガイドで詳しく解説しています。
ご注意: 本記事は、事業承継・M&A補助金事務局が公開している16次公募要領(専門家活用枠〈買い手・売り手〉/小規模売り手支援類型、2026年9月版)、小規模売り手支援類型ガイドブック、「16次 専門家活用 よくある質問」を2026年9月17日に確認して作成しています。補助額の試算は公募要領の補助率・上限額から編集部が計算したもので、実際の補助額は審査・確定検査で決まります。申請の可否・類型の選択・経費の該当性は、事業承継・M&A補助金事務局や事業承継・引継ぎ支援センター、認定経営革新等支援機関などにご確認ください。補助金の税務処理は税理士への相談をおすすめします。
この記事の結論
- 補助率2/3の条件を満たさない小規模事業者なら、手数料(税抜)900万円未満で小規模売り手支援類型の方が補助額が大きくなります。 赤字・利益率低下で2/3の条件を満たす場合は、手数料75万〜675万円なら補助額は同じ、675万円を超えると売り手支援類型が有利です
- 仲介会社・FAとの契約は「交付決定後」に結ぶ必要があります。 16次公募の交付決定は2027年1月下旬以降の予定のため、すでに契約した、または年内に契約したい売り手は対象になりにくい点に注意が必要です
- 補助対象はM&A支援機関登録制度に登録された仲介会社・FAの手数料に限られ、原則2者以上の相見積が必要です。 最低報酬額が書かれた見積では相見積を省略できる例外が使えません
補助金制度全体(4つの枠)の基本は事業承継・M&A補助金とは?をご覧ください。旧名称の「事業承継・引継ぎ補助金」と同じ制度です。
専門家活用枠とは|売り手が仲介会社・FAに払う費用を補助する枠

専門家活用枠は、M&Aで活用する専門家の費用の一部を国が補助する枠です。所管は経済産業省 中小企業庁で、事業承継・M&A補助金事務局が運営しています。
16次公募の専門家活用枠は、次の類型で構成されています。
類型 | 対象 | この記事での扱い |
|---|---|---|
買い手支援類型(Ⅰ型)/100億企業特例 | 株式や経営資源を譲り受ける中小企業等 | 対象外(買い手向け) |
売り手支援類型(Ⅱ型) | 株式や経営資源を譲り渡す予定の中小企業等 | 本記事で解説 |
小規模売り手支援類型 | 株式や経営資源を譲り渡す予定の小規模事業者等 | 本記事で解説 |
(出典:16次公募要領(専門家活用枠 買い手・売り手)、16次公募要領(小規模売り手支援類型)、確認日:2026年9月17日)
小規模売り手支援類型は15次公募で新設され、16次でも継続しています。公募要領では、FAや仲介業者などの専門家への手数料負担を軽くして、M&Aを進めやすくすることが目的として示されています。
申請はJグランツ(電子申請)のみで、GビズIDプライムの取得が必要です。
売り手支援類型と小規模売り手支援類型の違い【比較表】
2つの類型の大きな違いは、補助率の条件・補助下限額・上限額・未成約時の扱い・対象となるM&Aの形です。小規模事業者はどちらにも申請できますが、事務局のよくある質問(Q2-⑨)では「最適な類型を検討の上、どちらか1つに申請してください」とされています。
比較項目 | 売り手支援類型(Ⅱ型) | 小規模売り手支援類型 |
|---|---|---|
対象者 | 中小企業者等 | 小規模事業者等(製造業その他は従業員20人以下/商業・サービス業は5人以下/宿泊業・娯楽業は20人以下。会社・個人事業主) |
補助率 | 1/2以内。営業利益率の低下、または直近決算期の営業利益・経常利益が赤字なら2/3以内 | 2/3以内(条件なし) |
補助下限額 | 50万円(補助額が50万円未満になる申請は不可) | なし |
補助上限額(成約時) | 600万円 | 450万円 |
期間内に成約しなかった場合の上限 | 300万円 | 50万円 |
未成約時に対象となる経費 | 原則、DD費用とマッチングサイトのシステム利用料のみ(着手金は対象外) | 着手金・システム利用料・DD費用 |
DD費用の上乗せ | +200万円(売り手がDDを行う必要性がある場合に限る。事務局確認あり) | なし |
廃業費を併用する場合の上乗せ | +300万円 | +150万円 |
対象となるM&Aの形 | 株式譲渡/事業譲渡/第三者割当増資/株式交換/株式移転/合併/吸収分割など | 株式譲渡・事業譲渡のみ |
加点「小規模事業者等に該当」 | あり(小規模事業者が申請する場合) | 項目なし |
(出典:16次公募要領〈専門家活用枠 買い手・売り手〉「10. 補助上限額、補助率等」、16次公募要領〈小規模売り手支援類型〉「4.」「10.」、16次 専門家活用 よくある質問 Q9-⑤・Q9-⑨・Q8-④、確認日:2026年9月17日)
補助金は精算払い(後払い)で、補助対象経費は消費税を除いた税抜額で計算します。仲介会社への支払いは税込で行いますが、消費税分は補助されません。支払った消費税を仕入税額控除できるかは、課税事業者かどうか、誰が手数料を負担するか、売却の方法などによって変わります。M&A手数料と消費税の関係はM&A仲介手数料の消費税・インボイス対応で解説しています。※税務の詳細は税理士への相談をおすすめします。
売り手支援類型で補助率2/3になる条件
売り手支援類型(Ⅱ型)は、次のいずれか1つを満たすと補助率が1/2から2/3に上がります(公募要領10章 注3)。
- ①物価高などの影響で営業利益率が低下している:直近の事業年度と2期前の事業年度を比べる方法か、直近の事業年度と進行中の事業年度の任意の連続3か月(前年同時期)の平均を比べる方法のどちらかで確認
- ②直近決算期の営業利益または経常利益が赤字
①は事務局サイトの「営業利益率低下に関する計算書」と損益計算書(または試算表)、②は直近期の損益計算書(個人事業主は確定申告書Bと青色申告決算書)を提出します。
DD費用の上乗せは「売り手なら誰でも」ではない
売り手支援類型の上乗せ(+200万円)について、公募要領の表では買い手・売り手共通の欄に記載されています。ただし事務局のよくある質問(Q8-④)では、売り手がDDを行う状況は実務上限られるため、どのような想定か事務局から確認する場合があるとされています。
「売り手支援類型なら誰でも上限800万円」とは考えず、セラーズDD(売り手が自社の課題を事前に洗い出す調査)を行う具体的な必要性がある場合の選択肢と捉えておくのが安全です。DDの基本はデューデリジェンスとはをご覧ください。
仲介手数料別の補助額はいくら?【編集部試算】
手数料(税抜)が300万円なら補助額は150万〜200万円、600万円なら300万〜400万円が目安です。 下の表は、期間内に成約し、見積額の全額が補助対象経費として認められた場合の上限計算です。
補助対象経費(税抜) | 小規模売り手支援類型(2/3・上限450万円) | 売り手支援類型 補助率1/2(上限600万円) | 売り手支援類型 補助率2/3(上限600万円) |
|---|---|---|---|
60万円 | 40万円 | 申請不可(30万円<下限50万円) | 申請不可(40万円<下限50万円) |
150万円 | 100万円 | 75万円 | 100万円 |
300万円 | 200万円 | 150万円 | 200万円 |
600万円 | 400万円 | 300万円 | 400万円 |
900万円 | 450万円(上限) | 450万円 | 600万円(上限) |
1,200万円 | 450万円(上限) | 600万円(上限) | 600万円(上限) |
※編集部試算(公募要領の補助率・上限額・下限額による算術計算。出典:16次公募要領、確認日:2026年9月17日)。成約時・経費全額が認定された前提で、DD上乗せ・廃業費併用は含みません。相見積を省略した場合は後述のレーマン表で計算した額が基準になるなど、実際の補助額は審査・確定検査で確定します。
自己負担額の例(小規模売り手支援類型・手数料税抜300万円の場合)
- 仲介会社への支払い:税込330万円
- 補助額:200万円(税抜300万円×2/3)
- 実質の自己負担:130万円(税抜の残り100万円+消費税30万円。消費税の仕入税額控除は考慮していません)
仲介会社ごとの手数料水準はM&A仲介会社の手数料比較 完全ガイドで比較できます。
試算からわかる類型選びの分かれ目
公募要領の数字から計算すると、次の3つが判断の目安になります(編集部分析)。
ケース | 有利になりやすい類型 | 理由 |
|---|---|---|
小規模事業者で、補助率2/3の条件を満たさない | 手数料(税抜)900万円未満なら小規模売り手支援類型 | 900万円で補助額が同じ450万円になり、それを超えると売り手支援類型(1/2)が上回る |
小規模事業者で、赤字・利益率低下により補助率2/3の条件を満たす | 手数料(税抜)75万円以上675万円以下なら同額、675万円超なら売り手支援類型 | どちらも2/3のため、差が出るのは上限額(450万円と600万円)のみ。75万円未満は売り手支援類型の下限額(50万円)に届かない |
補助額が50万円に届かない少額案件(手数料税抜100万円未満。2/3の条件を満たす場合は75万円未満) | 小規模売り手支援類型 | 売り手支援類型は補助額50万円未満だと申請できない |
補助額以外にも、期間内に成約しなかった場合の扱いが大きく違います。着手金がかかる仲介会社に依頼する場合、売り手支援類型では未成約時に着手金が補助対象外になりますが、小規模売り手支援類型なら上限50万円の範囲で着手金も対象です。成約まで14か月に収まるか不安がある小規模事業者は、この点も判断材料に入れてください。
なお、小規模事業者が売り手支援類型に申請すると「小規模事業者等に該当」の加点を受けられます。ただし、加点が採否にどの程度影響するかは公表されていません。
どちらを選ぶ?売り手の類型選択チャート
迷ったときは、次の順番で確認すると絞り込めます。
- 小規模事業者等に該当するか?(製造業その他20人以下、商業・サービス業5人以下、宿泊業・娯楽業20人以下)
- 該当しない → 売り手支援類型のみ
- 該当する → 2へ
- 予定しているM&Aの形は株式譲渡・事業譲渡か?
- 合併・会社分割・株式交換などを予定 → 売り手支援類型
- 株式譲渡・事業譲渡 → 3へ
- 補助率2/3の条件(営業利益率の低下、または直近期の営業利益・経常利益が赤字)を満たすか?
- 満たさない → 手数料(税抜)900万円未満の見込みなら小規模売り手支援類型、900万円超なら売り手支援類型
- 満たす → 675万円超の見込みなら売り手支援類型、75万円未満なら小規模売り手支援類型、75万〜675万円なら補助額は同じ(4へ)
- 補助額が同じ場合は、補助額以外の条件で比べる
- 着手金ありの仲介会社で、14か月以内の成約に不安がある → 未成約時も着手金が対象になる小規模売り手支援類型
- 期間内に成約できる見通しがある → 「小規模事業者等に該当」の加点を受けられる売り手支援類型も選択肢(加点の影響度は非公表)
見積を取る前は手数料の見込み額が分からないことも多いため、最終的な類型の判断に迷う場合は、見積を取った登録支援機関や事業承継・引継ぎ支援センター、事務局に相談することをおすすめします。
補助対象になる費用・ならない費用
補助対象の中心は、登録FA・仲介業者に払う着手金・中間報酬・成功報酬などの手数料です。 それ以外にも、弁護士による契約書レビューや司法書士の登記費用、セカンドオピニオン費用なども対象になります。一方、仲介契約を結ぶ前のコンサル費用や補助金の申請書作成代行費用は対象外です。
補助対象になる主な費用(売り手の場合)
経費区分 | 主な内容 | 注意点 |
|---|---|---|
委託費(FA・仲介) | 着手金、マーケティング費用、リテーナー費用(月額報酬)、基本合意時の中間報酬、成功報酬、企業価値の算定費用 | M&A支援機関登録制度に登録されたFA・仲介業者のみ |
委託費(その他専門家) | 売り手によるDD費用、弁護士の最終契約書作成・レビューやクロージング手続き、不動産鑑定、司法書士の登記費用、行政書士の許認可申請、社労士の労務手続き、セカンドオピニオン費用 | DD費用は登録の有無を問わない |
システム利用料 | M&Aマッチングサイトの登録料・利用料・成約手数料 | 交付決定前に加入したサイト経由の成約手数料は対象外 |
保険料 | 売り手が手配する表明保証保険の保険料(引受審査料を含む) | 同じ案件で買い手と重複加入は不可 |
謝金・旅費・外注費 | 士業などから知識教授を受けた際の謝金、M&Aの打合せのための交通費など | 旅費はタクシー代・ガソリン代・日当などは対象外 |
廃業費(併用時) | 解散・清算登記の費用、在庫廃棄、解体、原状回復、リース解約など | 廃業を伴う場合のみ |
(出典:16次公募要領「9. 補助対象経費」・別紙「補助対象経費」、中小企業庁「M&A支援機関登録制度について(令和8年5月)」p.5、確認日:2026年9月17日)
表明保証保険の仕組みは表明保証とは、補償の上限設定はM&A補償の上限・免責金額(キャップ・バスケット)交渉ガイドも参考にしてください。
補助対象にならない主な費用
- FA・仲介契約を結ぶ前のコンサルティング費用
- 企業価値を上げるためのバリューアップ・コンサルティング費用
- 再生計画書の作成費用、債務整理の手続費用
- PMIなどクロージング後の費用
- 補助金の申請書作成を行政書士などに依頼した費用、実績報告書の作成費用
- 振込手数料、消費税
- バーチャルデータルームなどのファイル共有・ストレージ使用料
- 現金払い、手形・小切手、電子マネー(PayPay・Suicaなど)での支払い(補助事業者名義口座からの銀行振込かクレジットカード1回払いのみ対象)
(出典:16次公募要領 別紙「対象とならない経費の一部」、確認日:2026年9月17日)
「売却前に会社の価値を上げるコンサル」を仲介会社から提案された場合、その費用は補助対象にならない点に注意してください。
仲介会社との契約は「交付決定後」に|タイミングを間違えると対象外
仲介会社・FAとの委託契約は、交付決定日以降に結ぶ必要があります。 契約・発注・支払いのすべてを、交付決定後から補助事業期間の終了までに収めなければ補助対象になりません。
16次公募から逆算した売り手のスケジュール
時期(予定を含む) | 売り手がやること |
|---|---|
〜2026年10月 | GビズIDプライムの取得、登録支援機関への相談と見積の取得(契約はまだしない) |
2026年10月2日(金)〜11月6日(金)17:00 | Jグランツで申請(締切厳守) |
2026年12月下旬以降 | 採択発表 |
2027年1月上旬〜 | 交付申請 |
2027年1月下旬以降 | 交付決定 → ここから仲介会社・FAと契約 |
交付決定から14か月以内(2028年3月頃まで) | 企業概要書の作成、買い手探し、基本合意、最終契約、クロージング、手数料の支払い |
事業完了後 | 実績報告 → 確定検査 → 補助金の入金 |
補助事業期間の終了後3年間 | 事業化状況の報告 |
(出典:事業承継・M&A補助金 令和7年度補正予算ページ、16次公募要領 8章・13章、確認日:2026年9月17日)
時期によって対象外になるケース
- 仲介会社との契約が補助事業期間の開始前 → 対象外
- 成功報酬の支払いが補助事業期間の終了後 → 対象外
- 期間開始前に最終契約を結び、覚書で最終契約日を期間内にずらす → 原則認められない
- 中間報酬は基本合意書の締結が条件(意向表明書の段階では対象外)
- 実際の手数料が見積より高くなっても、補助の上限は交付申請時の金額まで
事務局のよくある質問(Q3-⑤)では、専門家と契約する時期の目安として、売り手の場合は「ティーザーやIMの作成段階の手前」が示されています。つまり、補助金を使うなら相談と見積の取得までにとどめ、ノンネームシートや企業概要書の作成に入る前に契約する流れになります。
また、事務局のガイドブックでは、買い手が見つかるまで数か月から1年ほどかかる場合もあると説明されています。14か月以内にクロージングと支払いまで終えられるかは、依頼する仲介会社と事前に確認しておきましょう。売却にかかる期間の目安は会社売却とは・流れ完全ガイドで解説しています。
相見積と最低報酬額の落とし穴|レーマン表の例外が使えないケース
仲介・FA費用は、原則として登録支援機関2者以上から見積を取り、最も安い見積の業者を選ぶ必要があります。 事務局のよくある質問(Q9-⑤)でも、最低価格を提示していない業者を選ぶと補助対象にならないとされています。
相見積のルールで押さえておきたいのは次の点です。
- 相見積の相手も登録FA・仲介業者であること(未登録業者の見積は無効とみなされる場合があります)
- 1社から複数の業務の見積を取る場合は、費用の種類ごとの金額が必要(合計額だけでは相見積を取っていない扱い)
- 「選定理由書」を出しても相見積の代わりにはならない
相見積が不要になる「レーマン表」の例外
選んだ仲介会社・FAの見積額(着手金を含む報酬の総額)が、次のレーマン表で計算した額以下であれば、相見積を省略できます。
移動総資産(譲渡額+負債額)の区分 | 料率 |
|---|---|
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超〜10億円以下の部分 | 4% |
10億円超〜50億円以下の部分 | 3% |
50億円超〜100億円以下の部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
(出典:16次公募要領 別紙「補足:相見積取得が不要な条件」、確認日:2026年9月17日。公募要領上、この表は中小企業庁が定めたものではなく参照用とされています)
たとえば想定譲渡額(移動総資産)が5億円なら、レーマン表での額は2,500万円です。見積が着手金500万円+成功報酬2,000万円=2,500万円であれば、相見積なしで申請できます。この例外を使った場合、補助対象経費はレーマン表で計算した額が基準になります。
ただし、見積に最低報酬額が書かれている場合はこの例外は使えず、相見積が必要です。 事務局のよくある質問(Q21-⑤)でも、最低金額を設定している場合は要件に合わないとされています。
小規模な会社ほど、レーマン方式で計算した額より仲介会社の最低報酬額の方が高くなりやすい傾向があります。小規模案件の売り手は、最初から2者以上の登録支援機関に見積を依頼する前提で準備するのが現実的です。レーマン方式の計算方法はレーマン方式とは、最低報酬額の違いは最低報酬が安いM&A仲介会社 比較をご覧ください。
中小企業庁の登録制度サイトには「手数料の簡易計算」ツールがあり、見積額とレーマン方式の目安を比べるときに使えます。
補助金を使えない売り手の典型例
親族への承継、従業員を引き継がない譲渡、決算3期未満の会社などは、専門家活用枠の対象外、または対象外と判断される可能性があります。 申請の準備を始める前に、次の項目に当てはまらないか確認してください。
会社・事業主の要件で対象外になるケース
- 法人で、申請時点までに3期分の決算・申告を終えていない
- 個人事業主で、開業届・青色申告承認申請書の提出から5年が経っていない、または白色申告(よくある質問 Q16-③)
- 資本金5億円以上の法人の100%子会社、直近3年の課税所得の年平均が15億円超、みなし大企業など
- 社会福祉法人・医療法人・一般社団法人・組合など
- 過去に本補助金(旧:事業承継・引継ぎ補助金など)を受けたのに、事業化状況報告を期日までに行っていない
- 登録FA・仲介業者(またはその代表者)自身が売り手になり、自社や関連会社を委託先にする場合
M&Aの内容で対象外になるケース
- 親族間の事業承継、グループ内の再編
- 売り手と買い手が本人・同族関係者、または支配関係のある法人
- 物品や不動産だけの売買、設備・従業員・顧客などをまとめて引き継がない事業譲渡
- 常時使用する従業員を1名も引き継がない(役員や個人事業主本人は「常時使用する従業員」に含まれません。申請時に従業員1名分の労働条件通知書を提出します)
- 株式譲渡後に買い手の議決権が過半数に届かない
- 譲渡価格が専門家費用に比べて低すぎるなど、取引の合理性が確認できない(事業譲渡0円・株価1円など)
- 休眠会社や実態のない会社の譲渡
(出典:16次公募要領 5章・6.1・6.2、16次 専門家活用 よくある質問、確認日:2026年9月17日)
株式譲渡の場合は、対象会社と、議決権の過半数を持つ支配株主(または株主代表)の共同申請になります。オーナー社長が株主として手数料を負担する場合は、共同申請の形になる点も押さえておきましょう。
親族に継ぐかM&Aで売るか迷っている段階なら、事業承継とM&Aの違いから整理するのがおすすめです。
申請の流れと必要書類(売り手の場合)

申請は、支援機関への相談と見積取得 → GビズIDプライム取得 → Jグランツで申請、の順に進めます。 GビズIDプライムは取得に1週間程度(混雑時は3週間程度)かかるため、最初に手続きを始めてください。
- 相談:事業承継・引継ぎ支援センター、登録支援機関、商工会・商工会議所、取引金融機関、税理士・中小企業診断士など
- GビズIDプライムの取得:印鑑証明書の原本、代表者印を押した申請書、代表者本人がSMSを受け取れる電話番号が必要
- 見積の取得と書類準備:登録支援機関から原則2者以上
- Jグランツで申請:2026年10月2日(金)〜11月6日(金)17:00
- 採択 → 交付申請 → 交付決定
- 交付決定後に仲介会社・FAと契約 → 売却活動 → 最終契約・クロージング → 期間内に支払い
- 実績報告 → 確定検査 → 補助金の入金(精算払い)
- 3年間の事業化状況報告
株式譲渡の売り手が用意する主な書類
- 対象会社の履歴事項全部証明書(発行から3か月以内)
- 直近の確定申告書(別表一・二・四)と直近3期分の決算書
- 株主名簿(代表者の原本証明付き)
- 常時使用する従業員1名分の労働条件通知書
- 代表者の住民票(マイナンバーは墨消し)、共同申請者の住民票または履歴事項全部証明書
- 仲介会社・FAなどの見積書(原則2者以上)
- 該当する場合:補助率2/3の条件を示す書類、加点の証明書類
個人事業主が事業譲渡する場合は、住民票、直近3期分の確定申告書B(第一表・第二表)と青色申告決算書、開業届・青色申告承認申請書の写しなどが必要です。
(出典:16次公募要領 11章・12章・14章、小規模売り手支援類型ガイドブック、確認日:2026年9月17日)
審査では、補助事業期間内に計画どおり進められるか、譲渡の目的・必要性、譲渡による地域経済への効果などが見られます。事務局は不採択の理由の問い合わせには応じていません。
参考までに、15次公募の専門家活用枠は申請312件・採択194件でした(採択率 約62.2%は編集部算出。出典:ミラサポplus 15次公募の採択結果、確認日:2026年9月17日)。なお、売り手支援類型・小規模売り手支援類型ごとの件数は公表資料で確認できていません。締切から逆算した準備手順は16次公募の申請ガイドにまとめています。
活用前に知っておきたいリスク・注意点

補助金を使うと、仲介会社との契約開始が遅れる、成約しないと補助額が大きく減る、補助金に税金がかかる、といった制約が生じます。 補助額だけで判断せず、次の点も確認してください。
期間内に成約しないと補助上限が大きく下がる
補助事業期間内にクロージングと支払いまで終わらない場合、上限は売り手支援類型で300万円(原則DD費用・システム利用料のみ)、小規模売り手支援類型で50万円に下がります。未成約の場合は「未成約時の追加報告書」で要因分析や今後の計画を提出しますが、提出しても交付が約束されるわけではありません。
手数料はいったん全額を自己資金で払う
精算払いのため、成功報酬を含む手数料は先に全額を支払い、補助金は実績報告と確定検査の後に入金されます。成功報酬は譲渡代金の入金後に払うケースが多いものの、支払い自体も期間内に完了させる必要があります。つなぎ資金が必要な場合は、早めに金融機関へ相談してください。売却で手元に残る金額の考え方は会社売却で手元に残るお金の計算をご覧ください。
補助金は課税の対象になる
公募要領とよくある質問(Q5-①)では、補助金は収益として計上され、法人税などの課税対象になると説明されています。株式譲渡・事業譲渡そのものの税金とあわせて、実際の税務処理は税理士にご相談ください。 売却時の税金の全体像は会社売却の税金・節税 完全ガイドで解説しています。
3年間の事業化状況報告と、情報公表の可能性
補助事業期間の終了後3年間は、事業化状況の報告義務があります。報告しない、または虚偽の報告をすると交付決定の取り消しや返還の対象になります。株式譲渡で会社の支配権が買い手に移った後、誰が報告を担うかについては公募要領上の明記を確認できなかったため、事務局に確認したうえで買い手とも取り決めておくことをおすすめします。
また、補助金の交付後は、法人名・代表者名・所在地(都道府県など)などが公表される場合があります。売却の事実をどこまで知られてよいかも含めて検討してください。
申請書の作成代行は行政書士に限られる
申請は本人が行うのが原則です。行政書士(行政書士法人)以外が報酬を受けて申請書を作ると、行政書士法違反や交付決定取り消しの可能性があります。仲介会社から「申請書を作ります」と言われた場合は、誰が作成するのかを確認してください。行政書士に依頼した費用自体も補助対象外です。
「登録支援機関だから安心」とは限らない
中小企業庁とM&A支援機関登録制度事務局は2026年9月1日、営業停止の意思を示した相手に営業を再開した登録支援機関1社に再度注意を行い、その対応を公表しました。同じ資料で紹介されている情報提供窓口のチラシには、「成功報酬は売却代金の5%と聞いていたが、最低報酬金額が適用され、想定よりも高い手数料を払うことになった」といった相談例も載っています(出典:不適切な営業行為に係るトラブルの発生を踏まえた対応について、確認日:2026年9月17日)。
登録は補助金の要件ですが、手数料の内訳や契約条件は自分で確認する必要があります。仲介会社の見極め方はM&A仲介会社の選び方を参考にしてください。
専門家活用枠の活用をおすすめする売り手・おすすめしない売り手
補助金は手数料負担を大きく減らせる一方、スケジュールと手続きの制約があります。自社の状況と照らし合わせて判断してください。
こんな売り手におすすめ
- 従業員数名〜20名程度の小規模事業者で、後継者がいない
- 仲介手数料の負担が、会社を売るかどうかを決めるうえでのネックになっている
- 2027年以降の成約で問題なく、交付決定まで仲介契約を待てる
- 従業員を引き継ぐ株式譲渡・事業譲渡を予定している
- 赤字や利益率の低下で、売り手支援類型の補助率2/3の条件を満たす
- 弁護士の契約書レビューやセカンドオピニオンも使って、慎重に売却を進めたい
こんな売り手にはおすすめしない
- すでに仲介会社・FAと契約している(その契約に基づく費用は対象になりません)
- 健康上の理由などで売却を急いでおり、2027年春より前に成約したい
- 親族や同族関係者への承継を予定している
- 従業員がいない、または資産だけを譲渡する
- 決算が3期に満たない法人、開業5年未満や白色申告の個人事業主
- 最低報酬額のある仲介会社1社にどうしても依頼したく、相見積を取る予定がない
補助金を使わない場合でも、着手金なしや最低報酬の低い仲介会社を選ぶ、手数料を交渉するといった方法で負担を抑えられます。着手金なしのM&A仲介会社 比較やM&A仲介手数料は値引き交渉できるかもあわせてご覧ください。
仲介会社に見積を依頼する前のチェックリスト
補助金を前提に仲介会社・FAへ見積を依頼するときは、次の7項目を確認してください。
# | 確認項目 | 確認方法・ポイント |
|---|---|---|
1 | M&A支援機関登録制度に登録されているか | 登録支援機関データベースで検索。遅くとも交付申請までに登録が完了している必要があります(よくある質問 Q14-②) |
2 | 2者以上の登録支援機関から見積を取ったか | 相見積の相手も登録業者であること |
3 | 見積が費用の種類ごとに分かれているか | 着手金・中間報酬・成功報酬などの内訳が必要 |
4 | 最低報酬額の記載があるか | 記載があればレーマン表の例外は使えず、相見積が必須 |
5 | 中間報酬の発生条件は基本合意書の締結か | 意向表明書の段階で発生する中間報酬は対象外 |
6 | 成功報酬の支払期限が補助事業期間内に収まるか | クロージング後の支払いスケジュールを確認 |
7 | 契約日を交付決定後にできるか | 交付決定前に契約書を交わさないよう、仲介会社と日程を共有 |
契約書に成功報酬・中間報酬の支払条項が入っているかも、補助対象になるための条件です。契約条件(最低報酬額・中間報酬の条件・秘密保持条項など)に不安がある場合は、弁護士への相談をおすすめします。売り手向けの仲介会社選びはM&A仲介会社 比較(売り手向け)も参考になります。
困ったときの相談先

補助金の要件や類型選びで迷ったら、次の窓口に相談できます。
相談先 | 相談できること |
|---|---|
事業承継・M&A補助金事務局(専門家活用枠)050-3145-3812(平日9:30〜12:00/13:00〜17:00) | 申請要件、類型の選択、経費の該当性 |
売却の進め方、専門家の紹介、補助金を含む全体相談 | |
商工会・商工会議所、取引金融機関 | 申請準備、つなぎ融資 |
税理士 | 補助金の税務処理、売却時の税金 |
行政書士(行政書士法人) | 申請書類の作成代行(有償の場合) |
M&A支援機関登録制度の情報提供受付窓口 | 登録支援機関の不適切な営業・手数料トラブル |
(事務局の電話番号・受付時間は2026年9月17日時点の16次公募要領・事務局サイトの記載です)
よくある質問
Q. すでに仲介会社と話を進めていますが、今から契約し直せば補助対象になりますか?
まだ契約を結んでいない段階なら、交付決定後に契約すれば対象になり得ます。一方、すでに契約を結んでいる場合、その契約に基づく費用は対象外です。また、補助事業期間の開始前に最終契約を結び、覚書で契約日を期間内にずらすことは原則認められていません。個別の事情は事務局に確認してください。
Q. 買い手がまだ決まっていなくても申請できますか?
申請できます。専門家活用枠は、これから専門家を使って譲り渡しを進める売り手を支援する枠で、公式ガイドブックでも従業員数名規模の会社が買い手探しから専門家費用に活用するイメージが示されています。ただし、補助事業期間内に成約しないと補助上限が大きく下がるため、見通しは申請前に確認しておきましょう。
Q. 仲介会社ではなくM&Aマッチングサイトを使う場合も補助されますか?
マッチングサイトの登録料・利用料・成約手数料は「システム利用料」として補助対象になり、登録制度への登録も不要です。ただし、交付決定前に加入したサイト経由の成約手数料は対象外です。また、成約手数料だけがかかるマッチングサイトに複数登録している場合は、相見積が不要になる例外があります。サイトがFA・仲介業務もあわせて提供する場合は委託費扱いとなり、登録制度への登録が必要です。マッチングサイトと仲介会社の違いはバトンズとM&A仲介会社の違いをご覧ください。
Q. 15次公募で不採択でした。16次に申請し直せますか?
公募要領やよくある質問では、不採択者の再申請を禁じる記載は確認できませんでした(2026年9月17日時点)。ただし、事務局は不採択理由の問い合わせに応じていないため、事業計画の書き方や加点項目を見直したうえで、申請前に事務局へ確認することをおすすめします。
Q. 売り手が賃上げ加点を申請するとどうなりますか?
売り手が賃上げの加点を申請する場合は、M&A後も買い手などが賃上げに取り組むことについて合意を得たうえで誓約書を提出します。目標を達成できなかった場合、報告から18か月間、中小企業庁所管の補助金で大幅に減点されます。買い手との合意が取れない段階で安易に申請しないよう注意してください。
Q. 17次公募はありますか?
2026年9月17日時点で、17次公募の有無や時期は公式に発表されていません。16次の締切(11月6日17:00)に間に合わない場合は、事務局サイトやミラサポplusで最新情報を確認してください。
まとめ|補助額と契約タイミングの両方で判断する
事業承継・M&A補助金の専門家活用枠は、会社を売るオーナーが仲介会社・FAに払う手数料の1/2〜2/3を補助する制度です。売り手は次の順で判断すると、損をしにくくなります。
- 小規模事業者なら2類型を比較する:補助率2/3の条件を満たさない場合、手数料900万円未満なら小規模売り手支援類型が有利になりやすい
- 交付決定(2027年1月下旬以降の予定)まで仲介契約を待てるか確認する
- 登録支援機関2者以上から、費用の種類ごとの見積を取る:最低報酬額の記載があれば相見積は必須
- 14か月以内に成約・支払いまで終えられるか、仲介会社と見通しを共有する
- 課税・報告義務・情報公表などの制約も踏まえ、税理士や事務局に相談する
16次公募の申請受付は2026年10月2日から11月6日17:00までです。まずはGビズIDプライムの取得と、登録支援機関への相談・見積依頼から始めましょう。
関連記事
