結論から言えば、会社を丸ごと売って引退したいオーナー経営者には「株式譲渡」、一部の事業だけ売却して会社を存続させたい場合は「事業譲渡」が基本の選択になります。 税金面でも、個人オーナーが株式譲渡を選ぶと一律20.315%の分離課税で済むのに対し、事業譲渡では法人税約30〜34%に加えて個人への資金移転時にさらに課税される「二重課税」が発生するため、手取り額に大きな差がつきます。
ただし、どちらが有利かは一概に言えません。株式の分散状況、簿外債務の有無、許認可の重要性、売却後に同業種で起業する予定があるかなど、個別の事情によって最適解は変わります。
この記事でわかること
- 株式譲渡と事業譲渡の違いを10項目で整理した総合比較表
- 売却額1億円の手残りシミュレーション(株式譲渡 vs 事業譲渡)
- 5つの質問で自社に合うスキームを判定する方法
- 業種・状況別の具体的な選び方(建設業、飲食業、IT企業など)
- 従業員・個人保証・競業避止義務の違いと実務上の注意点
こんな経営者に向けた記事です
- 会社の売却を検討しているが、株式譲渡と事業譲渡のどちらにすべきか迷っている方
- 税金や手取り額の具体的な違いを数字で理解したい方
- M&A仲介会社への相談前に基本的な判断軸を持っておきたい方
注意: 本記事の税金・法律に関する記載は2026年4月時点の情報に基づく一般的な情報提供です。実際の税務判断・法的判断は、必ず税理士・弁護士などの専門家にご相談ください。
株式譲渡と事業譲渡の違いを10項目で比較【総合比較表】

まず、株式譲渡と事業譲渡の違いを一覧で把握しましょう。中小企業のオーナーが売却を検討する際に重要な10項目を比較します。
比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
何を売るか | 株式(=会社の経営権そのもの) | 事業に関する資産・権利義務(個別に選択) |
取引の当事者 | 株主(個人オーナー)と買い手 | 会社(法人)と買い手 |
お金を受け取るのは | 株主個人の口座へ直接入金 | 会社の法人口座に入金 |
承継の方式 | 包括承継(会社丸ごと移転) | 個別承継(資産・契約を一つずつ移転) |
売り手の税金 | 個人株主:一律20.315%(分離課税) | 法人税:約30〜34% + 個人への移転時に追加課税 |
消費税 | 非課税 | 課税資産に対して10% |
従業員 | 自動承継(個別同意不要) | 個別に転籍同意が必要 |
許認可 | 原則そのまま引き継ぎ | 再取得が必要 |
競業避止義務 | 法定の義務なし(契約で設定は可能) | 会社法21条により同一事業を20年間禁止 |
手続きの複雑さ | シンプル(株式の名義変更が中心) | 煩雑(資産・契約の個別移転が必要) |
(出典:M&Aキャピタルパートナーズ公式、M&A総合研究所、fundbook公式、会社法21条。2026年4月14日確認)
売り手オーナーにとっての最大の違いは「税金」と「手続きの手間」です。 株式譲渡は手続きがシンプルで税負担も軽い傾向にあるため、中小企業のM&Aでは最も多く利用されています。一方、事業譲渡は「売りたい部分だけ選んで売れる」という柔軟性が最大の強みです。
次のセクションでは、自社の状況に合ったスキームを5つの質問で判定する方法を紹介します。
5つの質問であなたに合うスキームを判定

「どっちがいいか」を判断するために、以下の5つの質問に順番に答えてみてください。あなたの状況に応じた最適な手法が見えてきます。
質問1:会社全体を売却したいか、一部の事業だけ売りたいか?
→ 一部の事業だけ売りたい → 事業譲渡の方向で検討
→ 会社全体を売りたい → 質問2へ
質問2:許認可(建設業許可・飲食店営業許可・薬局開設許可など)は事業の核心か?
→ はい → 株式譲渡が有利(許認可がそのまま引き継がれる)
→ いいえ → 質問3へ
質問3:株主構成はシンプルか?(オーナー1人、または親族2〜3人で100%保有)
→ いいえ(株主が多い・所在不明の株主がいる) → 事業譲渡の方が進めやすい場合あり。M&A専門家に相談を
→ はい → 質問4へ
質問4:簿外債務や偶発債務のリスクはあるか?
→ リスクが大きい → 事業譲渡の方が買い手のリスクを限定できるため、交渉がまとまりやすい
→ リスクは小さい / デューデリジェンスで対応可能 → 質問5へ
質問5:売却後に同業種で再起業する予定はあるか?
→ はい → 株式譲渡が有利(法定の競業避止義務なし。ただし契約で制限される場合あり)
→ いいえ → 株式譲渡がおすすめ(手続きがシンプルで税負担も軽い)
判定結果のまとめ:
- 質問1〜5のすべてが「会社全体・許認可あり・株主シンプル・簿外債務少・再起業予定なし」に該当 → 株式譲渡が最適
- 一部事業の売却、株主が分散している、簿外債務リスクが高い → 事業譲渡が有利な場合あり
- 判断に迷う場合 → M&A仲介会社やFAに相談して、双方のシミュレーションを出してもらうのが確実です
関連記事:M&A仲介会社おすすめ比較では、初回無料相談に対応している主要仲介会社を一覧で比較しています。
株式譲渡とは?売り手オーナーが押さえるべき基本
株式譲渡とは、株主が保有する株式を第三者(買い手企業や個人)に売却し、会社の経営権を移転するM&A手法です。 株主が変わるだけで、会社の法人格・資産・負債・契約・従業員・許認可はすべて包括的に引き継がれます。中小企業のM&Aでは最も多く利用されている手法です。
株式譲渡の仕組み
取引の構造はシンプルです。売り手であるオーナー株主が、保有する株式を買い手に譲渡し、その対価(売却代金)を個人として直接受け取ります。会社そのものは何も変わりません。社名も、取引先との契約も、従業員の雇用契約も、銀行口座もそのまま存続します。
変わるのは「誰がオーナーか」だけです。
売り手にとってのメリット
- 手続きがシンプル — 株式譲渡契約の締結と株主名簿の書換えが中心。取引先との契約巻き直しは不要
- 税負担が軽い — 個人株主の場合、譲渡益に対して一律20.315%の申告分離課税
- 対価が個人に直接入る — 法人を経由しないため、手残り額が読みやすい
- 従業員の雇用がそのまま維持される — 包括承継のため個別の同意取得が不要
- 許認可がそのまま引き継がれる — 建設業許可、飲食店営業許可など、取り直しが不要
売り手にとってのデメリット・注意点
- 一部の事業だけ残すことができない — 会社丸ごとの売却が原則
- 簿外債務も買い手に引き継がれる — 買い手がリスクを嫌い、譲渡価格の減額交渉に発展する可能性がある
- 株式の分散問題 — 複数株主がいる場合、全株主から同意を取りまとめる必要がある
- 株主名簿の不備 — 中小企業では株主記録が不正確なケースがあり、事前整理が必要
関連記事:株式譲渡とは?仕組み・手続き・税金をわかりやすく解説では、より詳しい手続きの流れや実務上のトラブル事例を解説しています。
事業譲渡とは?一部売却を選ぶときの基本
事業譲渡とは、会社が営む事業の全部または一部を、他の会社に譲渡する行為です。 有形資産(土地・建物・在庫)、無形資産(知的財産・顧客リスト・ノウハウ)、負債、契約などを個別に選んで譲渡できる点が最大の特徴です。
事業譲渡の仕組み
株式譲渡が「会社丸ごと」の売却であるのに対し、事業譲渡は「事業の中身を選んで売る」イメージです。取引の当事者は会社(売り手法人)と買い手企業であり、売却代金は会社の法人口座に入金されます。
オーナー個人がお金を手にするには、法人から退職金・配当・役員報酬などの形で別途支出する手続きが必要です。
売り手にとってのメリット
- 譲渡範囲を選べる — 収益性の高い事業だけ売却し、残したい事業は手元に残せる
- 会社の法人格が残る — 売却後も別の事業で法人を存続できる
- 売却益を再投資に使える — 残存事業の成長資金や新規事業の立ち上げに充当できる
- 買い手にとって簿外債務リスクが低い — 引き継ぐ資産を個別に選べるため、買い手の安心感が高い
売り手にとってのデメリット・注意点
- 手続きが煩雑 — 資産・契約を一つずつ個別に移転する必要がある。許認可も買い手が再取得しなければならない
- 税負担が重くなりやすい — 法人税約30〜34%がかかり、さらにオーナー個人が受け取る段階で追加課税(後述のシミュレーションで詳しく解説)
- 消費税が発生 — 課税資産の譲渡には消費税10%がかかる(土地・有価証券・債権は非課税)
- 競業避止義務が発生 — 会社法21条により、同一市区町村+隣接市区町村で同じ事業を20年間営むことが禁止される
- 従業員の個別同意が必要 — 転籍には本人の書面同意が必須(民法625条)。拒否されるリスクがある
- 株主総会の特別決議が必要 — 事業の全部または重要な一部を譲渡する場合
関連記事:M&Aの競業避止義務とは?期間・範囲・スキーム別の違いを徹底解説では、事業譲渡時の競業避止義務についてさらに詳しく解説しています。
税金と手残り額を具体的にシミュレーション

売り手オーナーにとって最も気になるのは「結局、自分の手元にいくら残るのか」でしょう。同じ売却額でも、スキームによって手残り額は大きく変わります。
基本の税率比較
項目 | 株式譲渡(個人株主) | 事業譲渡(法人) |
|---|---|---|
税率 | 一律20.315%(所得税15% + 住民税5% + 復興特別所得税0.315%) | 法人税等約30〜34% |
課税方式 | 申告分離課税(他の所得と分離) | 法人の総合課税(他の損益と合算) |
消費税 | 非課税(株式は有価証券のため) | 課税資産に対して10% |
お金の受取人 | 株主個人(直接入金) | 法人(個人への移転には別途課税) |
(出典:M&Aキャピタルパートナーズ「株式譲渡と事業譲渡の税金を比較」、M&A総合研究所「会社譲渡の税金」。2026年4月14日確認)
売却額1億円のシミュレーション
以下は、会社の時価純資産5,000万円・譲渡益5,000万円と仮定した場合のシミュレーションです。
株式譲渡の場合(個人株主)
項目 | 金額 |
|---|---|
売却額 | 1億円 |
取得費(出資額等) | 5,000万円 |
譲渡益 | 5,000万円 |
所得税・住民税等(20.315%) | ▲約1,016万円 |
オーナーの手取り | 約8,984万円 |
※仲介手数料は別途発生します。
事業譲渡の場合(法人 → オーナーへ退職金で支給)
項目 | 金額 |
|---|---|
売却額 | 1億円 |
譲渡原価(帳簿価額) | 5,000万円 |
法人の譲渡益 | 5,000万円 |
法人税等(約33%と仮定) | ▲約1,650万円 |
法人の税引後利益 | 約3,350万円 |
— オーナーへの退職金支給 | 3,350万円 |
退職所得控除(勤続30年の場合) | ▲1,500万円 |
課税退職所得(1/2) | 925万円 |
退職金にかかる所得税・住民税等 | ▲約143万円 |
オーナーの手取り(退職金から税引き後 + 出資額回収分) | 約8,207万円 |
※退職金スキームを使わず配当で受け取る場合、総合課税(最高税率約55%)が適用され、手取りはさらに減ります。
手残り額の差額
スキーム | 売却額1億円での手取り目安 | 差額 |
|---|---|---|
株式譲渡 | 約8,984万円 | — |
事業譲渡(退職金スキーム利用) | 約8,207万円 | ▲約777万円 |
事業譲渡(配当で受取) | 約7,100〜7,500万円 | ▲約1,500〜1,900万円 |
売却額が大きくなるほど、この差は広がります。 売却額5億円の場合、株式譲渡と事業譲渡(配当受取)の手取り差は数千万円規模に達する可能性があります。
重要: 上記はあくまで簡略化したシミュレーションです。実際の手残り額は、取得費の計算方法、退職金の適正額、既存の繰越欠損金の有無など多くの要素で変動します。正確な試算は必ず税理士に依頼してください。
関連記事:会社売却の税金はいくら?計算方法と節税対策7選を徹底解説では、売却額別の手取りシミュレーションや退職金スキームなどの節税対策を詳しく解説しています。
手続きの流れと所要期間の違い
手続きの手間も、スキーム選択の重要な判断材料です。株式譲渡は5ステップ程度でシンプルに完結するのに対し、事業譲渡は資産・契約の個別移転が必要なため8ステップ以上かかります。
株式譲渡の手続き(5ステップ)
- 株式譲渡契約の締結 — 売り手・買い手間で譲渡価格・条件を合意
- 取締役会(または株主総会)での譲渡承認決議 — 譲渡制限株式の場合に必要
- 株式の名義変更 — 株主名簿の書換え
- 対価の受渡し — 売却代金の決済
- クロージング — 各種届出・経営体制の移行
所要期間の目安: クロージングまで約1〜2ヶ月(デューデリジェンスや交渉を含むM&A全体では3〜6ヶ月が一般的)
事業譲渡の手続き(8ステップ)
- 取締役会での基本事項決議
- 事業譲渡契約の締結 — 譲渡対象の資産・負債・契約を個別に特定
- 株主総会の特別決議 — 事業の全部または重要な一部を譲渡する場合に必要(出席株主の議決権の2/3以上)
- 株主への通知または公告 — 効力発生日の20日前までに実施
- 資産の個別移転・引渡し — 不動産の登記移転、動産の引渡し、知的財産権の移転登録など
- 取引先との契約再締結 — 賃貸借契約、業務委託契約などを一つずつ巻き直し
- 従業員の転籍同意取得 — 書面での同意が必要。労働条件の再設定
- 許認可の再取得手続き — 新規申請が必要な許認可の手続き
所要期間の目安: クロージングまで約2〜4ヶ月(株式譲渡より長くなる傾向)
(出典:BUSINESS LAWYERS、山田コンサルティンググループ。2026年4月14日確認)
ポイント:手続きの負荷は買い手にも影響する
事業譲渡の場合、買い手側にも許認可の再取得や取引先との再契約という負担がかかります。この手間を嫌って「株式譲渡でなければ買わない」とする買い手も少なくありません。スキームの選択は、売り手だけでなく買い手の意向や負担も含めた交渉事項です。
従業員・個人保証・競業避止義務の違い
売却後の従業員の処遇、個人保証の解除、競業避止義務は、売り手オーナーにとって「税金以上に気になる」テーマです。スキームによって大きく異なるため、正確に理解しておきましょう。
従業員への影響
項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
雇用契約 | 自動承継(そのまま継続) | 承継されない。個別に転籍同意が必要 |
従業員の同意 | 不要 | 必須(民法625条) |
転籍を拒否されたら | 該当しない | 元の会社に残留。拒否は従業員の権利 |
退職金・勤続年数 | 原則そのまま通算 | 一旦精算して再雇用、または通算は交渉次第 |
労働条件 | 原則変更なし | 買い手企業の就業規則・給与体系が適用される場合あり |
(出典:fundbook公式、M&A総合研究所。2026年4月14日確認)
実務上のリスク: 事業譲渡ではキーパーソン(重要な技術者や営業担当者)が転籍を拒否するケースがあります。キーパーソンの離脱は事業価値の毀損に直結するため、買い手が譲渡価格の減額を求める原因になりえます。
個人保証(連帯保証)の扱い
会社売却時に多くのオーナーが不安に感じるのが、銀行借入の個人保証です。
項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
会社の借入金 | 会社に残ったまま承継される | 個別合意で選択的に引き継ぎ可能 |
個人保証の解除 | 買い手への経営権移転後、金融機関と交渉して解除 | 売却益で借入金を返済し保証解除するケースが多い |
自動解除されるか | いいえ。解除の手続きが別途必要 | いいえ。借入金が残る場合、保証も残る可能性あり |
(出典:日本M&Aセンター公式FAQ、M&A総合研究所。2026年4月14日確認)
重要な注意点: どちらのスキームでも、個人保証は自動的に解除されません。株式譲渡の場合、譲渡契約書(SPA)に「買い手が売り手の個人保証を解除するために最大限の努力をする」旨の条項を入れるのが一般的です。金融機関が解除に応じるかは個別の審査次第であるため、M&A実行前に金融機関への事前相談が不可欠です。
競業避止義務の違い
項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
法律上の義務 | なし | 会社法21条により20年間、同一市区町村+隣接市区町村で同一事業を禁止 |
契約上の特約 | 任意で設定可能(2〜5年が多い) | 法定義務に加え、特約で最長30年まで延長可能 |
不正競争の禁止 | — | 区域・期間の制限なく、不正の競争目的での同一事業は全面禁止 |
売り手への影響は大きい: 事業譲渡後に同じ業種で再び起業することを考えている場合、20年間の競業避止義務は非常に大きな制約です。この点だけで株式譲渡を選ぶオーナーも少なくありません。
ただし、株式譲渡の場合も、売買契約に競業避止条項が含まれるのが一般的です。その場合の期間は2〜5年程度が相場であり、事業譲渡の法定20年と比べると大幅に短いのが通常です。
のれん(営業権)の扱いと買い手の思惑
のれんの取り扱いは「買い手側のメリット」の話ですが、売り手にも間接的に影響します。
項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
のれんの発生 | 原則なし(株式の取得原価として処理) | あり(譲渡対価と時価純資産の差額) |
税務上の償却 | 不可 | 5年間の定額償却で損金算入が可能 |
買い手の節税効果 | なし | のれん償却費を法人税の計算上、損金に算入できる |
(出典:M&Aキャピタルパートナーズ公式、fundbook公式。2026年4月14日確認)
売り手が知っておくべきポイント: 事業譲渡では買い手がのれん償却による節税メリットを享受できます。そのため、「買い手は事業譲渡を希望しているが、売り手は株式譲渡を希望する」という利害の対立が生じるケースがあります。
このとき、買い手が事業譲渡による節税メリットの一部を売却価格に上乗せする形で折り合うこともあります。スキーム選択は売り手と買い手の交渉の中で決まるものであり、自社の希望を一方的に通せるとは限らない点を理解しておきましょう。
業種・状況別|あなたの会社に合うスキームの選び方
ここまでの比較を踏まえ、業種や状況ごとのおすすめスキームを整理します。
株式譲渡がおすすめの会社
状況・業種 | 株式譲渡が向いている理由 |
|---|---|
許認可が事業の核心(建設業・飲食業・調剤薬局・医療・運送業) | 許認可がそのまま引き継がれる。事業譲渡では再取得に数ヶ月〜1年かかるケースも |
後継者不在でリタイアしたい | 会社丸ごと引き渡してクリーンに引退できる。株式の売却代金で老後資金を確保 |
従業員の雇用を確実に守りたい | 包括承継のため雇用契約がそのまま維持される。転籍拒否リスクがない |
借入金が多い(個人保証がある) | 借入金を含めて包括承継。買い手の信用力で借入条件が改善される場合もある |
スピードを重視する | 手続きがシンプルで、事業譲渡よりも短期間で完了する傾向 |
株主構成がシンプル | オーナー1人(または親族少数)で100%保有なら、意思決定がスムーズ |
事業譲渡がおすすめの会社
状況・業種 | 事業譲渡が向いている理由 |
|---|---|
複数事業を持ち、一部だけ売りたい | 収益性の高い事業を切り出して売却し、残したい事業は手元に残せる |
簿外債務や偶発債務のリスクが高い | 買い手がリスクを限定できるため、交渉がまとまりやすい |
売却後も法人を存続させたい | 法人格が残るため、別の事業で経営を継続できる |
ノンコア事業の整理 | 本業に集中するために不採算事業・非関連事業を売却 |
IT・Web系でアセットが明確 | Webサービス・アプリ・顧客基盤など、譲渡対象を特定しやすい |
どちらにするか迷ったときの考え方
判断に迷う場合は、以下の優先順位で考えるのが実務的です。
- まず「売りたい範囲」で判断する — 会社全体なら株式譲渡、一部なら事業譲渡
- 次に「税金の手残り」で判断する — 個人オーナーなら株式譲渡が有利になるケースが多い
- 最後に「買い手の意向」を考慮する — 買い手がどちらを希望するかも交渉の重要な要素
最終的には、M&A仲介会社やFA(財務アドバイザー)に両方のスキームでシミュレーションを出してもらい、比較するのが最も確実です。 初回無料相談を実施している仲介会社も多いので、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 中小企業のM&Aではどちらが多く利用されていますか?
株式譲渡が最も多く利用されています。 手続きがシンプルで、許認可や従業員の雇用がそのまま引き継がれることが主な理由です。日本M&Aセンターも事業譲渡を「株式譲渡に次いで多く利用される手法」と位置づけています。明確な統計割合は公表されていませんが、複数の仲介会社が「中小企業M&Aの多くは株式譲渡で行われる」としています。
Q2. 株主が複数いて所在がわからない場合はどうすればいいですか?
株主の所在不明は中小企業で珍しくない問題です。対応方法として、(1) 会社法197条の所在不明株主の株式売却手続き(5年以上配当を受領しなかった株主の株式を売却できる制度)、(2) 株式併合による少数株主の排除(スクイーズアウト)、(3) 事業譲渡への切り替え、などが考えられます。いずれもM&Aに精通した弁護士への相談が必要です。
Q3. 事業譲渡で従業員が転籍を拒否したらどうなりますか?
転籍を拒否した従業員は、元の会社に残留する権利があります(民法625条)。ただし、売却する事業に属していた従業員が残留した場合、その従業員の配置転換や退職勧奨などの対応が必要になることがあります。キーパーソンの転籍拒否は買い手にとって大きなリスクであるため、事前にキーパーソンの意向確認を行い、転籍条件(給与維持・役職保証など)を明確にしておくことが重要です。
Q4. 事業譲渡の競業避止義務は絶対に20年間ですか?
会社法21条の法定期間は20年間ですが、売り手と買い手の合意で期間を短縮する特約を設けることが認められています。逆に、特約により最長30年まで延長することも可能です。実務的には、M&A交渉の中で競業避止の範囲・期間を具体的に定めるのが一般的です。「20年は長すぎる」と感じる場合は、契約時に短縮交渉を行う余地があります。
Q5. 買い手はどちらのスキームを好む傾向がありますか?
買い手の立場によります。株式譲渡を好む買い手は、手続きのシンプルさや許認可の承継を重視するケースです。事業譲渡を好む買い手は、(1) 簿外債務のリスクを避けたい場合や、(2) のれん償却による節税メリットを享受したい場合です。最終的なスキーム選択は、売り手と買い手の利害のバランスで決まるため、M&A仲介会社やFAに間に入ってもらいながら交渉するのが一般的です。
Q6. スキームの選択はいつまでに決める必要がありますか?
通常、M&Aの初期段階(仲介会社への相談〜基本合意書の締結まで)にスキームの方向性を決めます。ただし、デューデリジェンス(買い手による企業調査)の結果を踏まえてスキームが変更されるケースもあります。たとえば、当初は株式譲渡の予定だったが、デューデリジェンスで簿外債務が発覚し、買い手の要請で事業譲渡に切り替わるといったケースです。
Q7. 無料で相談できる窓口はありますか?
はい。全国47都道府県に設置された事業承継・引継ぎ支援センター(中小企業庁が設置)では、M&Aに関する無料相談を受け付けています。また、主要なM&A仲介会社の多くは初回無料相談を提供しています。「まずはスキームの方向性だけでも確認したい」という段階でも気軽に利用できます。
関連記事:M&Aの無料相談先と選び方・注意点
まとめ:迷ったらまず専門家に相談を
株式譲渡と事業譲渡の選択は、会社の売却を成功させるうえで最も基本的かつ重要な判断です。この記事のポイントをまとめます。
株式譲渡が向いているケース:
- 会社を丸ごと売却してリタイアしたい
- 許認可が事業の核心(建設・飲食・医療・運送など)
- 手続きをシンプルに、短期間で完了したい
- 個人オーナーとして税負担を抑えたい(20.315%の分離課税)
事業譲渡が向いているケース:
- 一部の事業だけ売却し、会社を存続させたい
- 簿外債務リスクが高く、買い手のリスクを限定したい
- ノンコア事業を整理して本業に集中したい
- 売却後も法人を活用して別の事業に取り組む予定がある
最終的なスキーム選択は、税理士・弁護士・M&A仲介会社などの専門家に相談のうえで決定してください。 特に税金の手残り額シミュレーションは個別の事情によって大きく変わるため、プロによる試算が不可欠です。
多くのM&A仲介会社では初回の無料相談で、スキーム比較のシミュレーションを出してもらえます。「まだ売却するか決めていない」段階でも相談は可能なので、早めに情報収集を始めることをおすすめします。
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