M&Aの無料相談は、M&A仲介会社・事業承継引継ぎ支援センター(公的機関)・士業事務所の3つが主な選択肢です。 仲介会社は初回相談無料が一般的で、公的機関は相談からマッチングまですべて無料、士業は顧問先でなければ有料が基本となります。
ただし「無料」の範囲は相談先によって大きく異なります。無料相談後に正式契約すると、着手金・中間金・成功報酬が発生する仲介会社もあるため、どこまでが無料で、どこから費用が発生するのかを事前に確認することが重要です。
この記事でわかること:
- M&Aの無料相談ができる相談先の種類と特徴
- 相談先ごとの費用比較(無料の範囲と有料になるライン)
- 信頼できる相談先を見分ける具体的なチェックポイント
- 中小企業庁が注意喚起しているトラブル事例と対処法
- 無料相談を最大限に活用するための事前準備
この記事は、会社の売却を検討し始めた中小企業の経営者に向けて書いています。 「まず誰に相談すればいいのかわからない」「無料相談で営業をかけられないか不安」という方に、判断材料を提供します。
M&Aの無料相談ができる4つの相談先

M&Aの相談先は大きく分けて4種類あります。それぞれ無料で対応してくれる範囲と、得意とする企業規模が異なります。
M&A仲介会社(民間)
ほぼすべてのM&A仲介会社が初回相談を無料で受け付けています。対面・オンライン・電話に対応している会社が多く、相談のハードルは低めです。
初回相談で対応してもらえる内容は一般的に以下の通りです。
- 自社がM&A(売却)に適しているかの初期判断
- 概算の企業価値・売却価格のイメージ
- M&Aの一般的な流れとスケジュール
- その会社の手数料体系の説明
- 秘密保持の方針
注意すべき点は、正式に仲介契約を結んだ後の費用体系です。 着手金・中間金が発生する会社と、成約時のみ費用が発生する「完全成功報酬制」の会社があります。この違いは後述の比較表で整理しています。
事業承継・引継ぎ支援センター(公的機関)
全国47都道府県に設置されている公的な相談窓口です。相談からマッチング支援まで原則すべて無料で利用できます。アドバイザーの人件費は国費で賄われており、中立的な立場からアドバイスを受けられるのが特徴です。
特定の仲介会社に誘導されることがないため、「まずは中立的な意見を聞きたい」という場合に適しています。
(出典: 中小企業基盤整備機構 事業承継・引継ぎポータル https://shoukei.smrj.go.jp/)
士業(弁護士・税理士・公認会計士)
顧問契約先であればM&Aの初期相談に応じてくれることがあります。ただし、M&A専門でない士業も多く、初回相談が有料の事務所が一般的です(弁護士は1時間あたり数万円が相場)。
M&Aの売却全体をサポートするというよりは、法務・税務面での個別論点について専門的な意見を求めたい場合に向いています。
金融機関(メインバンク)
取引のある金融機関に相談する方法もあります。大手銀行にはM&A部門がありますが、中小企業向けの対応は限定的な場合が多いのが実情です。相談自体は無料ですが、具体的な売却支援まで対応してもらえるかは銀行によります。
【比較表】相談先タイプ別の費用・対応範囲
相談先の選択で最も重要なのは、「無料の範囲」と「自社の規模に合っているか」です。以下の比較表で整理します。
相談先 | 初回相談 | 正式契約後の費用 | 対応企業規模 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
大手M&A仲介会社 | 無料 | 着手金+中間金+成功報酬(会社による) | 年商1億円以上が目安 | 大規模ネットワーク・実績豊富 |
完全成功報酬制の仲介会社 | 無料 | 成約時のみ成功報酬(最低報酬額あり) | 年商数千万円~ | 初期費用なし・成約まで費用不要 |
マッチングプラットフォーム | 無料 | 売り手は無料~低コスト(サービスによる) | 個人事業~小規模企業も可 | 手軽・幅広い案件に対応 |
事業承継・引継ぎ支援センター | 無料 | 無料(マッチングまで) | 中小企業全般(規模制限なし) | 中立・国の支援事業 |
士業(弁護士・税理士等) | 有料が一般的(顧問先は相談可) | 個別相談料+業務委託費 | 規模問わず | 法務・税務の専門性 |
金融機関 | 無料(取引先) | ケースバイケース | 取引先企業 | 融資・事業の全体像を把握 |
(2026年4月時点の一般的な傾向。各社・各機関の最新条件は直接確認してください)
主要M&A仲介会社の無料相談対応と料金体系
具体的にどの仲介会社が無料相談に対応しているのか、料金体系とあわせて比較します。
会社名 | 初回相談 | 着手金 | 料金体系の特徴 |
|---|---|---|---|
日本M&Aセンター | 無料(対面・Web) | あり | 業界最大手・全国対応 |
M&Aキャピタルパートナーズ | 無料 | 要確認 | 上場企業・大型案件に強い |
M&A総合研究所 | 無料 | 無料 | 完全成功報酬制 |
ストライク | 無料 | 要確認 | オンライン対応が充実 |
バトンズ | 無料(店舗・オンライン・電話) | 売り手完全無料 | マッチングプラットフォーム型 |
インテグループ | 無料 | 無料 | 完全成功報酬制 |
ウィルゲートM&A | 無料 | 無料 | IT・Web業界に特化 |
TRANBI | 初回30分無料 | — | マッチングプラットフォーム型 |
ファンドブック | 無料 | 要確認 | ワンストップ対応 |
(出典: 各社公式サイト、2026年4月時点の公開情報に基づく。料金体系は変更される場合があるため、相談時に最新情報を確認してください)
「完全成功報酬制」でも確認すべきポイントがあります。 デューデリジェンス(買収監査)の費用や実費が別途発生するケースもあるため、「成功報酬以外に一切費用はかからないのか」を相談時に明確に確認しましょう。また、最低報酬額が500万円~2,500万円と会社によって大きく異なるため、小規模な売却の場合は特に注意が必要です。
M&Aの費用や手数料体系の詳細については、「M&A費用の相場と手数料の仕組み」で詳しく解説しています。
信頼できる相談先を見分ける7つのチェックポイント

無料相談を受ける前に、その相談先が信頼に足るかどうかを判断する基準を持っておくことが大切です。以下の7つのポイントで確認しましょう。
1. M&A支援機関登録制度に登録されているか
中小企業庁が2021年に創設した登録制度で、FA・仲介業者あわせて約3,000件が登録されています(出典: M&A支援機関登録制度公式サイト、2024年時点の公開情報)。登録機関は「中小M&Aガイドライン」の遵守が義務付けられており、報酬体系の開示も求められます。
登録有無は上記公式サイトで検索できます。
なお、登録されていないこと自体が問題というわけではありませんが、登録機関を利用すると「事業承継・引継ぎ補助金」の対象になる可能性があるため、補助金活用を考えている場合は登録機関を選ぶメリットがあります。
2. 手数料体系を明確に説明してくれるか
初回相談の時点で、着手金・中間金・成功報酬の有無、レーマン方式の計算基準(移動総資産ベースか、株式価値ベースか等)、最低報酬額を具体的な数字で説明してくれるかどうかは重要な判断材料です。曖昧にされる場合は注意が必要です。
3. 秘密保持への対応が適切か
M&Aの検討を進めていることが従業員や取引先に漏れると、事業に深刻な影響が出ます。相談の初期段階でNDA(秘密保持契約)の締結を提案してくれるかを確認しましょう。
4. 自社の規模・業種に合った実績があるか
大手仲介会社が必ずしも自社に最適とは限りません。自社と同じ規模帯・業種の成約実績があるかを確認することで、ミスマッチを防げます。
5. アドバイザーの専門性と担当体制
相談時の対応者が実際に案件を担当するのか、営業担当と実務担当が分かれるのかを確認しましょう。担当者のM&A実務経験年数や成約実績も判断材料になります。
6. 利益相反の管理方針を説明してくれるか
M&A仲介会社は売り手と買い手の両方から報酬を受け取るケースがあります。この構造上、利益相反のリスクが存在します。どのように利益相反を管理しているかを説明してもらえるかは、誠実さの指標になります。
7. 過剰な営業・契約の急かしがないか
初回相談で「今すぐ契約しないと機会を逃す」などと急かすような営業は、中小企業庁も問題視しています。信頼できる相談先は、経営者のペースに合わせて検討時間を設けてくれます。
中小企業庁が注意喚起するM&Aトラブルと対処法

M&Aの無料相談を検討する前に、行政が公表しているトラブル事例を知っておくことは有益です。
中小企業庁による注意喚起(2024年8月)
中小企業庁は2024年8月30日に「M&Aに関するトラブルにご注意ください」を発表し、以下の問題を指摘しています。
- 不適切な買い手によるトラブル: M&A成立後に経営者保証の処理が適切にされず、買い手が資産回収後に事業資金を送金せず、売り手企業が倒産に至るケースが報告されている
- 仲介業者への是正指示: 2024年10月、中小企業庁は不適切な買い手問題でM&A仲介15社に是正を指示した
(出典: 中小企業庁「M&Aに関するトラブルにご注意ください」2024年8月30日 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2024/240830_01.html)
こんなサインが出たら要注意
中小企業庁の注意喚起やガイドライン改訂の内容を踏まえると、以下のような対応をする相談先には慎重になるべきです。
- 初回相談ですぐに専任契約の締結を迫る
- 手数料体系の説明が曖昧で、具体的な金額を提示しない
- 買い手候補の調査・選定プロセスを十分に説明しない
- 秘密保持の具体的な管理方法を説明できない
- テール条項(契約終了後の報酬請求権)の説明が不十分
トラブルに遭った場合の相談窓口
万が一、M&A仲介に関するトラブルが発生した場合は、以下の窓口に相談できます。
- M&A支援機関協会(MAAA)苦情相談窓口: M&A仲介業者に関する苦情・相談を受付
- 事業承継・引継ぎ支援センター: 中立的な立場からアドバイスを提供
- 弁護士: 契約トラブルの法的対応
※契約トラブルや損害賠償等の法的対応については、M&Aに詳しい弁護士への相談をおすすめします。
無料相談を最大限に活用するための事前準備

無料相談の時間は限られています。事前に準備をしておくことで、より具体的なアドバイスを引き出せます。
準備1: 売却の目的を明確にする
「なぜ売却を考えているのか」を整理しておくことが最も重要です。目的によって、最適な相談先や進め方が変わります。
- リタイア・引退: 事業承継・引継ぎ支援センターへの相談も有効
- 従業員の雇用維持が最優先: 買い手選定の方針に直結する
- 事業の成長を託したい: 業界再編やシナジーを重視する買い手候補の検討が必要
- 経営不振からの立て直し: 早期の相談が重要(時間が経つほど選択肢が減る)
準備2: 基本的な財務情報を用意する
概算の企業価値を見積もってもらうために、以下を用意しておくとスムーズです。
- 直近3期分の決算書(貸借対照表・損益計算書)
- 事業の概要(売上構成・主要取引先・従業員数)
- 不動産や特許などの主な資産
準備3: 希望条件を整理する
「いくらで売りたい」「いつまでに売りたい」といった希望条件を、ある程度整理しておきましょう。精密な金額でなくても、方向性があれば相談がスムーズに進みます。
- 希望の売却価格帯(ざっくりでOK)
- 希望の譲渡時期
- 従業員の処遇に関する希望
- 取引先との関係維持の希望
準備4: 複数の相談先に相談する
1社だけでなく、2~3社に相談して比較することを強くおすすめします。 相談先によって企業価値の見積もりや提案内容が異なることは珍しくありません。比較することで、自社に合った相談先を見極めやすくなります。
企業規模・状況別のおすすめ相談先
「結局どこに相談すればいいのか」を、企業の規模と状況別に整理します。
年商1億円以上の中堅企業
おすすめ: 大手M&A仲介会社 + 事業承継・引継ぎ支援センター
大手仲介会社は大規模なネットワークを持ち、幅広い買い手候補にアプローチできます。まず事業承継・引継ぎ支援センターで中立的なアドバイスを受けてから、仲介会社を比較する進め方が安全です。
年商数千万円の小規模企業
おすすめ: 完全成功報酬制の仲介会社 または マッチングプラットフォーム
初期費用が発生しない仕組みの方がリスクを抑えられます。ただし、最低報酬額が高い会社だと売却額に対する手数料比率が割高になることがあるため、事前に確認しましょう。バトンズのようなプラットフォームは売り手側の費用が低く抑えられる場合があります。
個人事業・小規模事業者
おすすめ: 事業承継・引継ぎ支援センター + バトンズ等のプラットフォーム
大手仲介会社では対応が難しい規模でも、公的機関やプラットフォーム型サービスであれば対応可能です。まずは事業承継・引継ぎ支援センターに相談して、自社に合った選択肢を整理してもらうのが安心です。
特定業界(IT・Web・飲食等)の企業
おすすめ: 業界特化型の仲介会社
自社の業界に詳しい仲介会社を選ぶことで、適正な企業価値評価と業界内のネットワークを活用した買い手候補の発掘が期待できます。IT・Web業界であればウィルゲートM&A等、業界特化型の選択肢を検討しましょう。
M&A仲介会社の詳しい比較は「M&A仲介会社おすすめ比較」をご覧ください。
無料相談から正式契約に進む際のチェックリスト
無料相談を経て「この会社に任せよう」と判断した場合でも、正式契約の前に以下の点を必ず確認してください。
契約内容の確認ポイント
- 専任条項の有無: 専任契約を結ぶと、契約期間中は他の仲介会社を利用できなくなる。専任の範囲と期間を確認する
- 契約期間と更新条件: 通常6ヶ月~1年。自動更新になっていないか確認する
- テール条項: 契約終了後も一定期間内に成約した場合、報酬が発生する条項。期間と対象範囲を確認する
- 中途解約の条件: どのような場合に解約でき、違約金が発生するかを確認する
- 報酬の計算基準: レーマン方式の場合、「移動総資産ベース」か「株式価値ベース」かで金額が大きく変わる
これらの契約条件に不明点がある場合は、弁護士や税理士に契約書のチェックを依頼することをおすすめします。 M&Aは高額な取引であり、契約条件の見落としが後々の大きな損失につながることがあります。
※仲介契約書の法的確認やレーマン方式の計算内容については、M&Aに詳しい弁護士・税理士への相談をおすすめします。
相談のベストタイミング
M&Aの無料相談は、売却を決断してからではなく、「売却を少しでも考え始めた段階」で早めに受けるのが理想です。
一般的には、売却の2~3年前から準備を始めることで、以下のメリットがあります。
- 企業価値を高めるための改善に取り組む時間が確保できる
- 最適なタイミング(業績のピーク期など)を選んで売却できる
- 焦って不利な条件で売却するリスクを減らせる
逆に、業績が悪化してから慌てて相談すると、売却価格が低くなったり、買い手が見つかりにくくなったりします。「まだ具体的に決めていない」という段階でも、無料相談を利用して情報収集することは有効です。
M&Aの売却の具体的な流れについては「M&A売却の流れと手続き」で詳しく解説しています。
こんな経営者におすすめ / おすすめしないケース
M&Aの無料相談を活用すべき経営者
- 会社の売却に少しでも関心があるが、何から始めればいいかわからない方
- 後継者がいない、または後継者問題を解決したい方
- 自社の企業価値がどの程度か知りたい方
- 売却の時期やタイミングについてアドバイスが欲しい方
- 複数の仲介会社を比較して、信頼できるパートナーを見つけたい方
無料相談だけでは不十分なケース
- 法的トラブルを抱えている場合: 訴訟中・紛争中の案件は、まず弁護士に相談すべき
- 税務上の複雑な問題がある場合: 相続税・贈与税が絡むケースは、M&Aに詳しい税理士への相談が先
- 極めて機密性の高い売却の場合: 上場企業や業界への影響が大きい案件は、FA(フィナンシャルアドバイザー)への直接依頼を検討
M&A仲介とFA(フィナンシャルアドバイザー)の違いについては「M&A FAとは?仲介との違い」で解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q. 無料相談を受けたら、必ず契約しなければいけない?
契約の義務はありません。 無料相談はあくまで情報収集の場であり、相談しただけで費用が発生したり、契約を強制されたりすることはありません。複数の相談先に相談してから判断することをおすすめします。
Q. 無料相談で会社の情報を話しても大丈夫?
大手のM&A仲介会社や公的機関であれば、情報管理体制が整っています。心配な場合は、相談の冒頭でNDA(秘密保持契約)の締結を依頼しましょう。 応じてくれない相談先は避けた方が安全です。
Q. 相談してからM&A成約までどのくらいかかる?
案件の規模や条件にもよりますが、一般的には相談開始から成約まで6ヶ月~1年程度が目安です。買い手候補の探索・交渉・デューデリジェンスなどの工程があるため、余裕を持ったスケジュールで動くことが重要です。
Q. 事業承継・引継ぎ支援センターと仲介会社、どちらに先に相談すべき?
まずは事業承継・引継ぎ支援センターへの相談をおすすめします。 中立的な立場からM&Aの全体像や選択肢を教えてもらえるため、その後に仲介会社を比較検討する際の判断軸ができます。
Q. 「完全成功報酬制」なら本当に成約まで無料?
基本的には成約時のみ報酬が発生しますが、デューデリジェンス費用や交通費などの実費が別途請求されるケースもあります。 「成功報酬以外にかかる費用は一切ないか」を契約前に確認してください。また、最低報酬額(500万円~2,500万円程度)が設定されている場合もあるため、この点も事前確認が必要です。
まとめ
M&Aの無料相談は、売却を検討し始めた経営者にとって有効な第一歩です。ただし、相談先によって無料の範囲・得意な規模・サポート体制が異なるため、自社の規模と状況に合った相談先を選ぶことが後悔しないための最も重要なポイントです。
相談先選びで迷ったら、まずやるべきこと:
- 事業承継・引継ぎ支援センター(公的機関)で中立的なアドバイスを受ける
- M&A支援機関登録制度の登録リストから、自社の規模に合いそうな仲介会社を2~3社ピックアップする
- 各社の無料相談を受けて、手数料体系・実績・担当者の対応を比較する
焦らず、複数の相談先を比較してから判断してください。 M&Aは経営者にとって一生に一度の大きな意思決定です。信頼できるパートナーを見つけるために、無料相談の機会を最大限に活用しましょう。
M&A仲介会社の選び方については「M&A仲介会社の選び方ガイド」も参考にしてください。
