M&A仲介は売り手・買い手の双方と契約して中立的に仲介する形態、FA(財務アドバイザー)は一方のみと契約して依頼者の利益最大化を目指す形態です。 どちらを選ぶかで、手数料の総額・交渉の進め方・成約までの期間が大きく変わります。
この記事では、以下の内容をわかりやすく整理しています。
- M&A仲介とFAの違い(立場・手数料・利益相反リスクなど6軸で比較)
- 年商規模別の費用シミュレーション
- 「自社はどちらを選ぶべきか」を判断するためのフローチャート
- 第3の選択肢であるM&Aプラットフォームとの比較
この記事は、会社の売却を検討している中小企業のオーナー社長向けです。 「仲介とFAの違いがよくわからない」「どちらが自社に合うのか知りたい」という方に、判断材料を提供します。
M&A仲介とFAの基本的な違い
M&A仲介とFA(ファイナンシャル・アドバイザー)は、どちらもM&Aの成立を支援する専門家ですが、契約の立場が根本的に異なります。
M&A仲介とは
M&A仲介は、売り手と買い手の双方と仲介契約を結び、中立的な立場で交渉をまとめる支援形態です。日本の中堅・中小企業のM&Aでは最も一般的な方法であり、日本M&Aセンターやストライクなど上場仲介会社の多くがこの形態で事業を展開しています。
仲介者は、双方のメリットを考慮しながら「落としどころ」を見つけ、M&Aを成立させる役割を担います。
FA(財務アドバイザー)とは
FAは、売り手または買い手のいずれか一方のみと契約し、その依頼者の利益最大化に向けて助言する専門家です。いわば「自分の味方になってくれるアドバイザー」です。
上場企業同士の大型M&Aやクロスボーダー取引で使われることが多く、担い手としては以下のような組織があります。
- 証券会社(野村證券、大和証券、みずほ証券など)
- 銀行(メガバンクの投資銀行部門)
- 専業FA会社(フーリハン・ローキー〈旧GCA〉、マクサス・コーポレートアドバイザリーなど)
- 会計事務所系FAS(デロイト、PwC、KPMG、EYのFAS部門)
(出典: M&A総合研究所コラム、fundbook公式コラム — 2025年確認)
【比較表】M&A仲介 vs FA — 6つの違い

以下の表で、仲介とFAの違いを主要6軸で整理します。
比較項目 | M&A仲介 | FA(財務アドバイザー) |
|---|---|---|
契約の立場 | 売り手・買い手の双方と契約(中立) | 一方のみと契約(片側代理) |
報酬の支払元 | 双方から受け取る | 契約した一方のみから受け取る |
費用水準(1社あたり) | 相対的に低い | 相対的に高い |
成約までのスピード | 比較的早い | 長期化しやすい |
利益相反リスク | あり(双方代理の構造的問題) | なし(片側のみの代理) |
適する取引規模 | 中小企業(年商数千万〜数十億円) | 大企業・上場企業・クロスボーダー |
この6つの違いを、以下のセクションで詳しく解説します。
立場の違い — 中立の仲介者か、自分の味方か
仲介とFAを比較するうえで最も重要な違いは、誰のために動くか(契約上の立場)です。
仲介: 双方の間を取り持つ
M&A仲介者は、売り手企業と買い手企業の双方と契約し、その間に立って交渉を調整します。不動産売買でいえば「両手仲介」に近い形態です。
メリット:
- 双方の意向を把握しているため、条件の擦り合わせがスムーズに進む
- 1社の仲介者が全体を管理するため、スケジュール調整が効率的
- 売り手と買い手の感情的な対立を仲介者がクッションとして吸収できる
注意点:
- 利益が対立する場面(特に売却価格の交渉)で、本当に中立でいられるかという構造的な懸念がある
FA: 依頼者の利益を最大化する
FAは、売り手か買い手のどちらか一方と契約し、その依頼者の利益を最大化するために動きます。弁護士が依頼人の利益を代理するのと同じ構造です。
メリット:
- 売り手FA であれば、売却価格や条件で売り手に有利な交渉を行ってくれる
- 依頼者以外から報酬を受け取らないため、利益相反のリスクがない
- 複雑なスキーム設計や企業価値評価で高い専門性を発揮する
注意点:
- 買い手側にもFAがつくと、双方が利益最大化を主張して交渉が長期化するリスクがある
- M&Aキャピタルパートナーズの公式解説では、「FAが利益最大化を追求しすぎると交渉が決裂するリスクがある」と指摘されている
(出典: M&Aキャピタルパートナーズ公式コラム)
手数料・費用の違い — 実際いくらかかるのか

売り手にとって気になるのは「結局いくらかかるのか」です。仲介とFAでは手数料の構造と総額の目安が異なります。
M&A仲介の手数料体系
費用項目 | 相場 | 備考 |
|---|---|---|
相談料 | 無料が多い | 初回面談・簡易査定まで無料の会社が増加 |
着手金 | 0〜300万円 | 完全成功報酬型(着手金なし)が増加傾向 |
リテイナーフィー | 0〜数十万円/月 | 不要な会社が多い |
中間金 | 成功報酬の10〜30% | 基本合意時に発生。不要な会社もある |
成功報酬 | レーマン方式(1〜5%) | 最低報酬額あり(500万〜2,500万円) |
ポイント: 仲介会社は売り手・買い手の双方から報酬を受け取るため、1社あたりの負担は相対的に低くなります。
FAの手数料体系
費用項目 | 相場 | 備考 |
|---|---|---|
着手金 | 50万〜100万円 | 中小企業相場。大型案件ではさらに高額 |
リテイナーフィー | 30万〜200万円/月 | 交渉期間が長引くとコスト増 |
成功報酬 | レーマン方式(2〜8%) | FA会社ごとに料率は異なる |
ポイント: FAは契約した一方のみから報酬を受け取るため、1社あたりの費用は仲介より高くなる傾向があります。また、着手金・月額リテイナーが発生するケースが多く、成約しなくても費用がかかるのが一般的です。
(出典: M&Aキャピタルパートナーズ公式コラム、M&A総合研究所コラム — 2025年確認。実際の手数料は契約前に必ず確認してください)
費用シミュレーション — 年商別の概算比較
以下は、成功報酬をレーマン方式(譲渡価格ベース)で計算した場合の概算です。実際の費用は会社ごとに異なりますので、参考値としてご覧ください。
売却価格 | M&A仲介(売り手負担の目安) | FA(売り手負担の目安) |
|---|---|---|
1億円 | 成功報酬 約500万円(最低報酬適用の場合が多い) | 着手金50万〜100万円 + リテイナー月30万〜 + 成功報酬 約500万〜800万円 |
3億円 | 成功報酬 約1,500万円 | 着手金50万〜100万円 + リテイナー月30万〜 + 成功報酬 約1,500万〜2,400万円 |
10億円 | 成功報酬 約4,000万円 | 着手金100万〜 + リテイナー月50万〜 + 成功報酬 約4,000万〜6,000万円 |
注意: レーマン方式の計算基準が「譲渡価格」か「移動総資産(株式価格+負債総額)」かで報酬額が2倍以上変わる場合があります。 契約前に必ず確認してください。
手数料の仕組みをさらに詳しく知りたい方は「M&A費用の相場と手数料体系を徹底解説」もご参照ください。
利益相反問題 — 仲介の構造的リスクを理解する
M&A仲介を利用する際に必ず理解しておくべきなのが、利益相反のリスクです。
なぜ利益相反が生じるのか
M&A仲介者は売り手と買い手の双方から報酬を受け取ります。しかし、売り手と買い手の利害は本質的に対立する場面があります。
- 売り手: できるだけ高く売りたい
- 買い手: できるだけ安く買いたい
この両者の間に立つ仲介者は、構造的に利益相反のリスクを抱えています。
仲介会社側の見解
M&Aキャピタルパートナーズの公式コラムでは、以下のように説明しています。
- 「顧客の最大の利益」は譲渡価格だけではなく、従業員の処遇・取引先との関係維持・経営理念の継承なども含む
- 中堅・中小企業の友好的M&Aでは、双方の利益を調整する仲介が適している
FA推進側の指摘
一方、東京商工リサーチの取材記事(片側FA専業のマクサス・コーポレートアドバイザリー森山社長インタビュー)では、以下の指摘がなされています。
- 買い手が仲介会社に手数料を上乗せして「安く買えるよう売り手を説得させる」ケースがある
- 一回限りの売り手より、複数回取引の可能性がある買い手を優先するインセンティブが仲介にはある
(出典: 東京商工リサーチ)
中小M&Aガイドラインの対応
中小企業庁は「中小M&Aガイドライン」(第3版・2024年8月改訂)で、仲介者に対し以下を義務化しています。
- 利益相反のおそれがある旨を依頼者に事前説明する義務
- 手数料の詳細説明の義務化
- 担当者の保有資格・経験年数・成約実績の説明義務
M&A支援機関登録制度に登録している仲介会社・FAは、このガイドラインの遵守が求められます。
(出典: 中小企業庁「中小M&Aガイドライン」)
売り手として押さえるべきポイント
利益相反リスクがあるからといって仲介が「悪い」わけではありません。大切なのは以下の3点です。
- 利益相反リスクの存在を理解した上で利用する — 仲介者が必ずしも売り手の利益を最大化する立場ではないことを認識する
- 複数の業者から話を聞く — 仲介会社だけでなく、FA型のサービスも含めて比較する
- 弁護士による契約書レビューを別途受ける — GVA法律事務所の弁護士解説でも、「仲介利用の場合でも弁護士による契約書レビューは不可欠」と指摘されている
(出典: GVA法律事務所)
【判断フローチャート】自社はどちらを選ぶべきか

「結局、自社はどちらを選べばいいのか」を判断するための簡易チャートです。以下の4つの質問に答えてみてください。
Q1. 売却価格は10億円を超える見込みですか?
→ はい → FA向き(大型案件は専門性が高いFAが適する)
→ いいえ → Q2へ
Q2. 海外企業との取引、または複雑なスキームが想定されますか?
→ はい → FA向き(クロスボーダー・複雑案件はFA向き)
→ いいえ → Q3へ
Q3. 売却価格・条件の最大化を何より優先しますか?(時間がかかっても構わない)
→ はい → FA(片側FA)を検討
→ いいえ → Q4へ
Q4. 費用を抑えつつ、半年〜1年程度で成約させたいですか?
→ はい → M&A仲介向き(中小企業のM&Aに最も実績がある形態)
→ 費用をさらに抑えたい → M&Aプラットフォームも選択肢に
第3の選択肢 — M&Aプラットフォームとの比較
近年、仲介・FAに加えて「M&Aプラットフォーム(マッチングサイト)」という第3の選択肢が広がっています。代表的なサービスにバトンズやM&Aサクシードがあります。
3者比較表
比較項目 | M&A仲介 | FA | M&Aプラットフォーム |
|---|---|---|---|
契約の立場 | 双方と契約(中立) | 一方のみと契約(片側) | マッチングのみ(自分で交渉) |
費用の目安 | 成功報酬500万〜(最低報酬あり) | 着手金+リテイナー+成功報酬 | 売り手無料〜成功報酬2%程度 |
サポート範囲 | 相手探し〜クロージングまで一括 | 戦略立案〜クロージングまで一括 | マッチング中心(交渉は自分で、またはアドバイザー別途) |
適する企業 | 年商数千万〜数十億円の中小企業 | 年商10億円超の中堅〜大企業 | 小規模事業(年商数千万円以下) |
成約スピード | 6ヶ月〜1年程度 | 1年〜数年 | 案件による(3ヶ月〜1年超) |
利益相反リスク | あり | なし | なし(ただし自己判断が必要) |
M&A仲介会社の選び方を詳しく知りたい方は「M&A仲介会社おすすめ比較」をご覧ください。
こんな企業にはM&A仲介がおすすめ
以下に当てはまる企業は、M&A仲介の利用が適しています。
- 年商が数千万〜数十億円規模の中小企業で、事業承継や経営戦略としてM&Aを検討している
- 相手先の候補がいないため、仲介会社の広いネットワークを活用して買い手を見つけたい
- 半年〜1年程度での成約を希望しており、スピーディーに進めたい
- 費用を抑えたい — 完全成功報酬型の仲介会社を選べば、成約しなければ費用ゼロのケースもある
- 友好的なM&Aを希望しており、従業員の雇用維持や経営理念の継承も重視している
こんな企業にはFA(財務アドバイザー)がおすすめ
以下に当てはまる企業は、FAの活用を検討する価値があります。
- 売却価格が10億円を超える見込みがある中堅〜大企業
- クロスボーダーM&A(海外企業との取引)を検討している
- 売却価格・条件の最大化を最優先したい(時間がかかっても構わない)
- 複雑なスキーム設計(合併、会社分割、株式交換など)が必要な案件
- 「磨き上げ」(企業価値向上施策)を行ってから売却したい — 時間的余裕がある
中小企業でもFAを使える選択肢が増えている
従来、FAは大企業向けの印象がありましたが、近年は中小企業向けに片側FAサービスを提供する事業者が増えています。
- マクサス・コーポレートアドバイザリー — 中小企業の売り手専門のFA。売り手の利益最大化に特化したサービスを提供
- 会計事務所・税理士法人系のFAS — M&Aに強い会計事務所が中小企業向けFA業務を展開
「自社は中小企業だからFAは無理」と決めつけず、選択肢として検討する価値はあります。ただし、費用が仲介より高くなる傾向がある点は理解しておきましょう。
おすすめしないケース
ケース | おすすめしない形態 | 理由 |
|---|---|---|
売却価格が数百万〜数千万円の小規模案件 | FA | 着手金・リテイナーの固定費負担が売却額に対して重すぎる |
海外企業との大型クロスボーダー案件 | M&A仲介(中小企業向け) | クロスボーダーの専門性が不足する可能性がある |
費用をとにかく抑えたい小規模事業 | M&A仲介・FA | M&Aプラットフォーム(バトンズ等)のほうがコストを抑えられる |
時間をかけてでも最高値で売りたい | M&A仲介 | 仲介は成約優先のため、売り手にとっての最高値にならない可能性がある |
よくある質問(FAQ)
Q. 仲介とFAを併用することはできますか?
一般的には併用しません。仲介は双方と契約する形態のため、売り手が別途FAを起用すると契約上の整合性が取れなくなります。ただし、仲介を利用する場合でも、弁護士や税理士を別途起用して契約書のレビューや税務対策を行うことは推奨されています。
Q. 途中でFA(または仲介)に切り替えることはできますか?
契約内容によりますが、仲介契約を中途解約してFAに切り替えること自体は法的には可能です。ただし、仲介契約には一定期間の拘束条項や、テール条項(契約終了後も一定期間内の成約には報酬を支払う条項)が含まれることがあるため、契約前に確認が必要です。 切り替えを検討する場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
※契約上の判断は個別の事情によって異なります。具体的な対応は弁護士等の専門家にご相談ください。
Q. M&A仲介にはどのような資格が必要ですか?
現時点では、M&A仲介業を行うための法定の資格制度はありません。ただし、中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」に登録するには、中小M&Aガイドラインの遵守が求められます。2026年2月が登録申請の最終締切(令和8年2月13日)でした。今後、M&Aアドバイザー資格制度の整備が進む見込みです。
Q. 仲介会社が「FA型サービス」を謳っている場合、本当にFA型ですか?
仲介会社のなかには「売り手に寄り添う」と表現する会社もありますが、契約形態が「売り手・買い手の双方と契約」であれば、それは仲介です。重要なのは契約書の当事者構成です。 本当にFA型かどうかは、「買い手からは報酬を受け取らない」契約になっているかで判断できます。
Q. どのタイミングで仲介・FAに相談すべきですか?
「売却を本格的に決める前」に相談するのがベストです。仲介会社もFA会社も、初回相談は無料であることが多く、自社の売却可能性や想定価格帯を把握できます。相談したからといって契約義務が生じるわけではないため、複数の仲介会社・FA会社に並行して相談し、比較したうえで選ぶことをおすすめします。
まとめ — 仲介かFAか、判断の3ステップ
M&A仲介とFAの選択は、以下の3ステップで整理できます。
ステップ1: 取引規模と複雑さを確認する
年商10億円超・クロスボーダー・複雑なスキームならFAが第一候補。中小企業の友好的M&Aなら仲介が有力。
ステップ2: 利益相反リスクを理解する
仲介は双方代理の構造のため、売り手の利益が最大化されない可能性がある。この点を理解したうえで利用するかどうかを判断する。
ステップ3: 複数の業者に相談して比較する
仲介会社・FA会社ともに初回相談無料のケースが多い。1社だけで決めず、必ず複数社に話を聞く。
M&Aは経営者にとって一生に一度の大きな決断です。仲介・FA・プラットフォームの違いを正しく理解し、自社に合った支援形態を選びましょう。
M&Aの契約条件や税務処理については、必ず弁護士・税理士等の専門家にご相談ください。
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