M&Aアドバイザーに法律上必須の国家資格は存在しない。 ただし、2026年度中に中小企業庁が主導する公的検定「中小M&A資格試験(仮称)」の開始が予定されており、M&A支援の質を担保する仕組みが大きく変わろうとしている。
この記事では、2026年3月27日に公表された中小企業庁の募集要領をもとに新資格の試験科目・方式・登録制度の最新情報を整理し、既存のM&A関連民間資格6種との違いを比較する。
この記事でわかること:
- 2026年度新設「中小M&A資格試験」の試験科目・問題数・合格基準
- 既存M&A関連資格6種の費用・難易度・特徴の比較
- 新資格とM&A支援機関登録制度の関係
- 売り手経営者がアドバイザーの資格をどう評価すべきか
対象読者: 会社売却を検討している経営者、M&A仲介会社選びで相手の資格・能力を見極めたい方、M&A業界でキャリアを検討している方
M&Aアドバイザーに資格は必要か?法律上の位置づけ

結論として、M&A仲介業務には法律上必須の資格がない。 不動産取引における宅地建物取引士のような独占業務資格は存在せず、現時点では資格なしでもM&A仲介業を営むことは合法である。
しかし、この「参入障壁の低さ」がトラブルの一因になっている。中小企業庁の資料(2026年3月17日)によれば、一部の仲介事業者による悪質な買い手紹介・説明不足・利益相反などの問題が表面化しており、業界全体の質を底上げする仕組みが求められてきた。
こうした背景から、中小企業庁は2026年度に個人単位で知識・倫理観を可視化する公的検定を新設する方針を打ち出している。
2026年度新設「中小M&A資格試験(仮称)」の全容

制度の概要と背景
中小企業庁が2026年度中の開始を目指して準備を進めている新資格制度のポイントは以下のとおりである。
項目 | 内容 |
|---|---|
正式名称 | 中小M&A資格試験(仮称)。「中小M&Aアドバイザー試験」とも呼ばれる |
制度の位置づけ | 国家資格ではなく、販売士検定や簿記検定に近い公的検定資格 |
創設主体 | 中小企業庁が制度設計を主導。試験運営は民間の受託事業者に委託 |
根拠 | 2025年6月13日閣議決定に明記。2026年3月17日付の中小企業庁資料で具体案提示 |
目的 | 中小M&A支援に必要な倫理観・知識・判断力を可視化し、質の高い支援人材を増やすこと |
出典:中小企業庁「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(2026年3月17日)
制度新設の背景には、以下の問題がある。
- 企業の休廃業・解散件数が急増(2024年に約6.3万件、出典:中小企業庁資料)
- 民間M&A支援機関の支援実績が事業承継・引継ぎ支援センターの2倍以上に拡大
- M&A仲介業への参入障壁が低く、最低限の能力基準が存在しなかった
- 一部事業者による悪質な買い手紹介・説明不足・利益相反のトラブルが表面化
試験科目・問題数・出題範囲
2026年3月27日付の中小企業庁募集要領に基づく現状案は以下のとおりである。最終確定ではないため、今後変更される可能性がある点に注意してほしい。
科目 | 想定問題数 | 主な出題範囲 |
|---|---|---|
M&A実務 | 21〜24問 | スキーム、進め方、リスク対応、PMI基礎 |
財務・税務 | 12〜14問 | ストラクチャリング、会計処理、税務リスク、企業価値評価 |
法務 | 10〜11問 | 民法、会社法、労働法、株式譲渡契約 |
倫理・行動規範 | 約15問 | 中小M&Aガイドライン、利益相反管理、説明義務 |
合計 | 最大約60問 | 4科目合計120分 |
出典:中小企業庁「令和7年度補正 中小企業活性化・事業承継総合緊急支援事業(中小M&A資格試験実施事業)に係る企画競争募集要領」(2026年3月27日付)
注目すべきは、「倫理・行動規範」が独立した科目として全体の約4分の1を占めている点である。単なる知識試験ではなく、利益相反管理や説明義務といった「支援者としての姿勢」を重視する設計になっている。
試験方式と合格基準
項目 | 内容 |
|---|---|
試験方式 | CBT(Computer Based Testing)方式。全国のテストセンターで受験可能 |
出題形式 | 選択式・短答式 |
合格基準 | 科目別合格最低基準(50%程度)の設定を検討中 |
試験頻度 | 年3回程度の実施日を設定し、受験者が1回選択 |
想定受験者数 | 約10,000人規模 |
受験料 | 未公表(2026年4月時点) |
出典:中小企業庁募集要領(2026年3月27日付)
CBT方式を採用することで、地方在住の受験者も全国のテストセンターで受験できる仕組みになっている。
合格後の登録制度
試験に合格しただけでは終わらない。合格後の登録制度と継続要件も制度の重要な特徴である。
- 合格者登録制度: 中小企業庁が別途検討中。有資格者の氏名をデータベース化し、公開で検索可能にすることを想定
- 倫理規程の遵守宣言: 登録・継続の要件として設定される見込み
- 定期講習: 更新時に受講が必要
- 違反時の措置: 資格取消・氏名公表の仕組みも検討中
- 参考モデル: 米国CBI資格(3件以上の実務経験要件、3年ごとの更新制度)
出典:中小企業庁募集要領、関連報道
この登録・更新制度が、既存の民間資格との最大の違いになる。「一度取得すれば終わり」ではなく、継続的に倫理観と知識をアップデートする仕組みが組み込まれている。
新資格制度のスケジュール(2026年4月時点の最新情報)
2026年4月時点で確認できるスケジュールは以下のとおりである。
時期 | 出来事 |
|---|---|
2025年5月〜6月 | 中小企業庁「中小M&A市場の在り方に関する研究会」で議論開始 |
2025年6月13日 | 閣議決定で資格制度創設が明記 |
2026年2月13日 | ニッキンが「政府、信金・信組に取得促す」と報道 |
2026年3月17日 | 中小企業庁が研究会で「中小M&A市場の改革に向けた方向性」を提示 |
2026年3月27日 | 中小企業庁が試験運営の受託事業者の企画競争募集を開始 |
2026年度中(時期未定) | 初回試験の実施を想定 |
出典:中小企業庁公表資料、各報道(2026年4月確認時点)
重要な注意点として、2026年4月時点ではまだ「企画競争の募集段階」であり、試験運営の受託事業者すら決まっていない。 初回試験の具体的な日程は、受託事業者の決定後に確定する見込みである。
既存のM&A関連資格6種の比較

現在、M&Aに関連する主な民間資格は以下の6種である。新資格が開始されるまでは、これらが実務上の能力指標として使われている。
資格の費用・難易度・特徴 比較表
資格名 | 運営団体 | 難易度 | 費用目安 | 試験方式 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
事業承継・M&Aエキスパート(金融業務2級) | 金融財政事情研究会 | 中程度 | 受験料7,700円程度 | CBT | 4段階体系。金融機関職員に普及。コストパフォーマンスが高い |
事業承継シニアエキスパート | 金融財政事情研究会 | やや高 | 養成スクール+試験 | 講座修了+試験 | 上級資格。養成スクール修了が受験要件 |
M&Aシニアエキスパート | 金融財政事情研究会 | 高 | 養成スクール+試験 | 講座修了+試験 | 最上位資格。実務レベルの高度な知識 |
JMAA認定M&Aアドバイザー(CMA) | 日本M&Aアドバイザー協会 | 中程度 | 受講料198,000円+入会金33,000円+年会費 | 養成講座+審査 | 人脈形成に強み。理事会審査あり |
M&Aスペシャリスト | 日本経営管理協会(JIMA) | 高 | 講座77,000円+検定11,000円 | 講座+検定試験 | 経済産業省認可。企業価値評価・PMI等の実務資格 |
事業承継士 | 事業承継協会 | 中〜高 | 講座300,000円+試験9,000円+入会金10,000円 | 講座修了+試験 | 事業承継に特化。実務プロセス全般をカバー |
出典:各運営団体公式サイト(2026年4月確認)
各資格の選び分け
M&A実務の基礎を低コストで学びたい場合 → 事業承継・M&Aエキスパート
受験料が7,700円程度と圧倒的に安く、CBT方式でいつでも受験できる。金融機関職員を中心に普及しており、まず最初に取得する資格として適している。4段階体系のため、段階的にレベルアップできる点もメリットである。
M&A業界での人脈形成を重視する場合 → JMAA認定M&Aアドバイザー(CMA)
養成講座を通じて同期受講者とのネットワークが構築できる。受講料は198,000円+入会金・年会費がかかるため、費用面のハードルは高い。
企業価値評価・PMIの実務スキルを重視する場合 → M&Aスペシャリスト
経済産業省認可の資格で、企業価値評価やPMI(Post Merger Integration)など実務に直結するスキルが問われる。2026年度は7月と12月に試験が実施される予定(出典:日本経営管理協会公式サイト、2026年4月確認)。
事業承継に特化して学びたい場合 → 事業承継士
M&A全般ではなく事業承継のプロセスに焦点を当てた資格。講座費用は300,000円と高額だが、事業承継の実務フロー全般をカバーする。
新資格と既存資格の違い|何が変わるのか
新設される中小M&A資格試験と既存の民間資格は、性質がまったく異なる。以下の比較表で違いを整理した。
比較項目 | 中小M&A資格試験(新設) | 既存の民間資格 |
|---|---|---|
制度の位置づけ | 公的検定(中小企業庁が主導) | 民間資格(各団体が独自に運営) |
倫理規範の科目 | 独立科目として全体の約25%を占める | 一部に含まれるか、明示的にはなし |
合格者の公開 | 氏名のデータベース化・公開を検討 | 一般には非公開(団体内で管理) |
更新制度 | 定期講習+倫理規程遵守が要件 | 資格による(更新不要のものもあり) |
違反時の措置 | 資格取消・氏名公表を検討 | 団体除名等(公的な措置はなし) |
想定受験者数 | 約10,000人規模 | 数百〜数千人程度 |
行政との連携 | M&A支援機関登録制度と連携の可能性 | 行政制度との直接的な連携なし |
最大の違いは、行政が制度設計に関与し、合格者の公開・違反時の取消など「実効性のある仕組み」を組み込もうとしている点である。既存の民間資格は「取得したことの証明」にとどまるが、新資格は「質の低い支援者を市場から排除する」機能も持たせようとしている。
M&A支援機関登録制度との関係
新資格を正しく理解するには、既存の「M&A支援機関登録制度」との関係を把握しておく必要がある。
比較項目 | M&A支援機関登録制度(既存) | 中小M&A資格試験(新設) |
|---|---|---|
対象 | 法人・組織単位 | 個人単位 |
登録数 | 約3,400者(2026年3月時点、出典:中小企業庁) | 約10,000人規模を想定 |
要件 | 中小M&Aガイドラインの遵守宣言 | 試験合格+登録+継続講習 |
制裁措置 | 登録取消(実績はあり) | 資格取消+氏名公表を検討 |
出典:中小企業庁M&A支援機関登録制度(https://ma-shienkikan.go.jp/)、中小企業庁資料(2026年3月17日)
M&A支援機関登録制度は「組織」を対象にした制度であるのに対し、新資格は「個人」の能力・倫理観を可視化する仕組みである。両者は競合するのではなく、補完関係にある。
将来的には、新資格の保有がM&A支援機関登録の要件に組み込まれる可能性も示唆されているが、2026年4月時点では未確定である。
信用金庫・信用組合への影響|政府が取得を促す方針
2026年2月13日のニッキン報道によると、政府は全国の信用金庫・信用組合のM&A担当職員に新資格の積極的な取得を促す方針である。
その理由は以下のとおりである。
- 信金・信組は地域の中小企業と長期的な取引関係を持ち、後継者不在の企業を早期に把握できる立場にある
- 成約後も継続的な関係を持つため、売り手の利益を守る動機が他のM&A仲介業者より強い
- 現状、地域金融機関のM&A支援能力にばらつきがあり、資格取得によって底上げを図る狙い
売り手経営者にとっては、取引先の信金・信組にM&A資格保有者がいるかどうかが、相談先選びの判断材料のひとつになる可能性がある。
出典:ニッキン(2026年2月13日号)
売り手経営者が資格をどう見るべきか|アドバイザー選びの実務的な判断基準

M&Aアドバイザー選びにおいて、資格は「あると安心だが、それだけで判断してはいけない」要素である。
資格がある場合に確認すべきこと
- どの資格を持っているか: 新設の中小M&A資格試験は倫理科目が充実しているが、既存の民間資格でも十分な実務知識の証明になる
- 資格取得後の実務経験: 資格はあくまで知識の証明であり、成約実績や担当案件数を別途確認する
- 更新・継続講習の有無: 資格を取得しただけで更新していない場合は注意
資格がない場合に確認すべきこと
- M&A支援機関登録制度に登録されているか: 法人単位の登録制度は現時点で唯一の公的チェック機能。M&A支援機関登録制度のサイトで確認できる
- 関連する国家資格(公認会計士・税理士・弁護士・中小企業診断士)の有無: M&A専門資格がなくても、これらの国家資格保有者は財務・法務の専門性が高い
- 担当者の実務経験・成約実績: 資格よりも実務経験を重視すべきケースは多い
アドバイザー選びで資格以上に重要なポイント
- 利益相反の管理体制: 仲介(両手)なのかFA(片手)なのか。仲介の場合、利益相反管理をどう行っているかの説明を求める
- 手数料体系の明確さ: 着手金・中間金・成功報酬の内訳、最低報酬額、計算方式(レーマン方式の適用基準)が明示されているか
- 自社の規模・業種との適合性: 大手仲介は年商数億円以上の案件に強く、小規模案件には対応しないケースがある
- セカンドオピニオンの許容: 他のアドバイザーへの相談を制限する条項がないか
M&A仲介会社の選び方について詳しくは「M&A仲介会社の選び方ガイド」で解説している。手数料体系の比較は「M&A費用・手数料の相場ガイド」を参照してほしい。
新資格制度の課題と限界
新資格制度に期待される効果は大きいが、現時点で指摘されている課題もある。
独占業務がない問題
宅地建物取引士には「重要事項説明」という法律上の独占業務があるが、新資格にはそうした独占業務がない。M&A専門メディアのプルータス・マネジメントアドバイザリーは「合格者と非合格者の明確な差異が生まれなければ、単なる能力検定に留まるリスクがある」と指摘している。
合格基準の甘さの懸念
科目別合格最低基準が「50%程度」の設定で検討されている点については、基準が低すぎると資格の信頼性が損なわれるという見方もある。
段階的な制度発展の可能性
スモールM&A研究会は、宅地建物取引士の歴史を参考に、新資格も段階的に制度が強化されていく可能性を指摘している。現時点では公的検定としてスタートし、将来的に法的な位置づけが強化される余地はある。
出典:プルータス・マネジメントアドバイザリー、スモールM&A研究会の各分析記事
こんな方にこの情報が役立つ/すぐには必要でない方
この情報を今すぐ活用すべき方
- 会社売却を検討中の経営者: 相談先のアドバイザーが「どの資格を持っているか」「M&A支援機関に登録されているか」を確認する判断材料になる
- M&A仲介業に従事している方: 新資格の取得準備は早めに始めた方がよい。試験科目の中小M&Aガイドラインの学習は今からでもできる
- 地域金融機関のM&A担当者: 政府が取得を促す方針であり、所属金融機関の方針を確認した上で準備を進めるべきタイミングである
- M&A業界への転職を考えている方: 新資格は「業界参入のための基礎スキル証明」として機能する可能性が高い
すぐには必要でない方
- 当面はM&Aの予定がない経営者: 制度がまだ確定していないため、具体的な売却検討段階に入ってから情報収集しても遅くない
- 大企業間のM&Aに関わる方: この資格は「中小M&A」を対象としており、大型案件には直接的には関係しない
よくある質問(FAQ)
Q. 新資格がないとM&A仲介業はできなくなるのか?
A. 現時点ではそのような法改正は予定されていない。新資格はあくまで公的検定であり、取得が業務の前提条件になるわけではない。ただし、将来的にM&A支援機関登録の要件に組み込まれる可能性は示唆されている。
Q. 既存の民間資格を持っている場合、免除措置はあるか?
A. 2026年4月時点では免除措置の有無は未公表である。今後の受託事業者決定後に詳細が明らかになる見込み。
Q. 受験料はいくらか?
A. 未公表(2026年4月時点)。既存資格の受験料が7,700円〜数万円程度であることを考えると、同程度の水準になる可能性はあるが、あくまで推測である。
Q. 公認会計士や税理士の資格があれば、M&A関連資格は不要か?
A. 公認会計士・税理士は財務・税務の専門家だが、M&A実務の全体プロセス(スキーム設計・PMI・利益相反管理など)をカバーする資格ではない。M&A業務に本格的に携わる場合は、M&A固有の知識を証明する資格の取得にメリットがある。
Q. 売り手としてアドバイザーに最低限求めるべき資格はあるか?
A. 資格単体で判断するのではなく、M&A支援機関登録制度への登録有無、担当者の成約実績、手数料体系の透明性を総合的に確認することをおすすめする。なお、法務・税務の専門的な判断が必要な場面では、弁護士・税理士等の国家資格保有者が関与しているかも重要な確認ポイントである。
※M&Aの実務判断(企業価値評価、税務処理、契約内容の検討など)については、税理士・弁護士・公認会計士等の専門家にご相談ください。
まとめ
2026年度に新設予定の「中小M&A資格試験」は、M&A仲介業界に初めての公的な個人能力認証制度をもたらす。倫理科目の独立設置、合格者の公開データベース、違反時の取消・氏名公表など、既存の民間資格にはなかった実効性のある仕組みが組み込まれている。
ただし、2026年4月時点では制度の詳細はまだ確定しておらず、初回試験の日程も決まっていない。今後の情報については、中小企業庁の公式発表を定期的に確認することをおすすめする。
売り手経営者の方へ: M&Aアドバイザーの能力は資格だけで測れるものではない。資格の有無に加え、M&A支援機関登録制度への登録状況、成約実績、手数料の透明性を総合的に確認したうえで相談先を選ぶことが重要である。
M&A仲介会社の比較・選び方については「M&A仲介会社おすすめ比較」、M&Aの基礎知識については「M&Aとは?基本をわかりやすく解説」も参考にしてほしい。
